拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
「お父様にお客様かしら?」
屋敷の車寄せは位置的に庭からは見えない。
フィーヌは気を取り直すと部屋へと戻った。
程なくして、コンコンコンと部屋のドアをノックする音がした。
「お嬢様。旦那様がお呼びです」
「お父さまが? すぐ行くわ。執務室かしら?」
「いえ。応接室に来るようにと」
「応接室?」
フィーヌは不思議に思い、聞き返す。
(さっきいらしたお客様をまだ対応しているのかしら?)
フィーヌの父は普段、執務室もしくはリビングサロンにいる。応接室は客人が来たときしか使わないはずだ。
(誰かしら?)
なぜフィーヌが呼ばれるのか心当たりはないが、応接室に行けばすぐに解決するだろう。
フィーヌは立ち上がって簡単に身支度を整えると、応接室へと向かった。
「お父様、フィーヌでございます」
「はいれ」
入室の許可が出て、フィーヌは応接室に入る。そして、ショット侯爵と向かい合って座っている人物を見て驚いた。
「あなたは──」
座っていてもわかる長身。きりっとした顔立ち。引き締まった体躯。そこには、つい先日休憩室で会ったロサイダー辺境伯のホークがいた。
(なんでロサイダー卿がここに?)
フィーヌは困惑した。
(もしかして、先日の件であらぬ誤解をされたとわたくしに苦情を言いに来たのかしら?)
気持ちは理解できるが、糾弾するならバナージとレイナにしてほしいものだ。
どうしたものかと思案していると「フィーヌ、ここに座りなさい」とショット侯爵が自分の横を指す。
「はい」
フィーヌは戸惑いつつもショット侯爵の隣に座った。
「あの……。一体、これは?」
「フィアナ。ロサイダー卿からお前に求婚の申し出があった」
「……はい?」
ショット侯爵の言葉が理解できず、フィーヌは目を瞬かせる。
フィーヌと目が合ったホークは、こくりと頷いた。