拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
「先日、あなたは不慮の事故で俺と休憩室に閉じ込められたばっかりに婚約破棄されてしまったそうだな。俺にも非があるのだから、きちんと責任は取らねばならない」
「責任?」
フィーヌは聞き返す。
先日の件については、全面的にホークとレイナが悪いとフィーヌは思っている。
ホークに関しては非はないどころか、むしろ被害者だ。
「お気遣いいただきありがとうございます、ロサイダー卿。ですが、そこまでしていただく必要はありません。わたくし達は神に誓って潔白ですので、ときが経てば皆忘れるでしょう」
「しかし、社交界ではあなたの悪い噂が流れていると聞いた。一度そのような状態になってしまうと、なかなか良縁を結ぶのは難しいだろう」
ホークは眉根を寄せる。
(あらまあ。もうそんなに悪い噂が流れているのね)
友人から聞いてはいたものの、ホークの耳に入るとなると予想よりもずっと悪い噂が多くの人に広まっているのかもしれない。
「それは……」
フィーヌは言葉に詰まる。
たしかに、ホークの言うとおりだった。一度社交界に醜聞が広がると、両家であればあるほど妻の候補からフィーヌを除外するだろう。
幸いにして神恵を持っているフィーヌを妻に望む貴族は多いはずだが、きっと子爵家や男爵家などの下位貴族になるはずだ。
「ロサイダー領はその地域性ゆえに、あなたに煌びやかな生活をおくらせてやることはできない。だが、あなたのことを大切にすると誓おう」
フィーヌはまっすぐに自分を見つめるホークを見返す。
「本気で仰っているの?」
お前のせいでひどい目に遭ったと糾弾してもいい状況なのに、フィーヌの境遇を案じてこうして求婚してくるなんて。
「冗談で、きみの父上まで巻き込むと思うか?」
ホークは器用に片眉を上げる。
フィーヌは黙り込んだ。
「フィーヌ。よく考えるんだ。こんなにいい話はないぞ」
フィーヌの父であるショット侯爵が、諭すように告げる。
ショット侯爵が言うことも理解はできた。ホークはまだ若く、健康で、おまけに辺境伯だ。フィーヌには勿体ないような話だった。