拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく

 「ああ。フィーヌはとんでもない悪女だったから、婚約破棄してやった。神恵だって「土の声を聴ける」とかいう意味がわからない地味なものだしな。それに引き換え、レイナは華やかな美人だし、神恵も「緑の手」だ。地味で冴えないフィーヌの百倍いい」
「たしかにレイナ嬢は甘え上手で可愛いよな。でも、フィーヌ嬢も凛とした美人だと思うけど」
「あいつが美人? 地味で全然笑わない陰気な女だ。でも、男を床に引き入れる手管はあるようだから誘えば乗って来るんじゃないか? なにせ、死神を陥落するぐらいだし」

 ハッと笑いながら、バナージは友人を煽る。

「あんな大人しい顔して意外だよな。なあ、バナージ。フィーヌ嬢のあっちのテクニックはどうなんだ?」
「自分で確認して見ろよ」
「試してやってもいいかもな」
 
 友人はバナージの話に乗り、嫌らしい笑みを浮かべた。
 フィーヌがホークと不貞行為をしていたという噂を各所に流してあるので、それを真に受けているのだ。

 そのとき、ドンッと机を叩く大きな音がした。

「公共の場で俺の婚約者を貶めるとは、どういうつもりだ?」

 視線だけで射殺しそうな目で自分達を睨み付ける人物──ホーク・ロサイダーを見て、バナージは驚いた。

「お前がなぜここに!?」
「用事があったからいただけだ。何か問題でも? 仕事もせずに昼間から飲み歩いている暇はないんでね」
「なんだとっ!」

 暗に自分のことを『仕事もせずに飲み歩いている暇人』と言われたと察し、バナージはカッとなる。しかし、立ち上がろうとした瞬間にホークにぐっと肩を押された。

「ぐっ!」

(なんて力だ)
 
 肩に片手を添えているだけなのに、全く立ち上がることができない。ホークはバナージを見つめる。
 
「喧嘩を吹っ掛けるなら相手をよく見るんだな」
「なっ!」

 青くなったバナージを、ホークは冷ややかに見下ろす。
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