拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
(体調不良で押し切れるかしら?)
もしも押し倒されたら、体格のよいホークに抵抗するのは無理だろう。
そうこうするうちに、寝室のドアがガチャリと開かれる。
そこには、ナイトガウンを着たホークがいた。襟や裾の部分にリボン刺繍が施されたナイトガウンはフィーヌのナイトウェア同様に、使用人が気合を入れて用意したものだろう。
ホークはゆっくりとした足取りでフィーヌのすぐそばまで歩み寄った。
「体調は戻ったようだな」
「えっ……と……」
フィーヌは言葉に詰まる。
(考えるのよ。何かいい方法──)
ホークの手がフィーヌの頬に触れそうになったそのとき、ハッと閃いた。
(そうだ!)
「閣下。わたくし達は結婚式を挙げないですね。でも、全知全能の神に対して約束の誓いは立てたいです」
ホークはぴたりと動きを止める。
「やっぱり結婚式を早めに挙げたいという意味か?」
「いいえ、違います。ロサイダー領の戦士たちは自らの剣を掲げ、神を証人として主に誓いを立てると聞いたことがあります」
それはロサイダー領に嫁ぐと決まったときから勉強し始めたこの地域の風習を書いた本に載っていたことだ。ロサイダー領の戦士たちは主に〝命を掛けて戦うこと〟を誓い、見返りとして〝決して見捨てないこと〟を求める。
「……きみは戦士ではない」
「ええ、その通りです。でも、ロサイダー辺境伯夫人となるのだから、誓いを立ててもいいのではないかと」