拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく

 フィーヌは自分を見下ろすホークを見返す。
 威圧感に震えそうになる自分を叱咤して、目を逸らさずに見返した。ホークがフッと小さな笑いを零す。

「俺を真っすぐ睨み据えると、きみは見た目に似合わず度胸があるな」
「褒め言葉だと受け取ります」

 本当は、怖くてたまらなかった。
 なにせ、相手は戦場で〝死神〟とまで言われた男なのだ。
 
「誓約がどういうものかわかって言っているのか? あれは、ただの口約束とは違う」
「もちろん、わかっております」

 フィーヌは頷く。
 書籍によると、この誓い──誓約は古い呪術の一種のようだ。
 一度誓うと破ることは許されず、もし破れば死んだほうがましだと思えるような苦痛を味わうと書かれていた。

 ホークは黙ったままフィーヌを見つめていたが、彼女の意思は強いと判断したのかふっと表情を緩めた。
  
「いいだろう。妻からの初めてのお願いだ」

 ホークはそう言うと、寝室の壁に飾られた剣を手に取る。

「これはロサイダー辺境伯家に代々伝わる聖剣だ。この地を訪れた若き兵士が女神から賜ったと言い伝えられている」

 ホークはそう言うと、剣を見せつけるようにフィーヌに差し出す。
 通常の腰に佩く剣とは太さも長さもまるで違った。柄と持ち手の部分には精緻な彫刻が施されており、まるで巨人のための宝剣だ。
 
(こんな大きな剣を片手で軽々と持ち上げるのね)
 
「この剣と全知全能の神に誓おう。きみには辺境伯夫人にふさわしい待遇を用意する。見返りには……そうだな、俺を決して裏切らないことだ。これでいいか?」

 ホークはフィーヌを見つめる。

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