拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
真っ赤になったフィーヌを見つめ、ホークは口の両端を上げた。
そこから先は記憶が曖昧でよく覚えていないが、ホークに翻弄されっぱなしだったように思う。
(さっき愛人のシェリーさんと愛し合ったばかりじゃないの!?)
軍人とはかくも体力があるものなのだろうか。
(もう、無理……)
やがてうとうとし始めたフィーヌは、そのまま眠りに落ちたのだった。
◇ ◇ ◇
ときは少しだけ遡る。
フィーヌを部屋に案内したあと、ホークは自分の私室へと戻った。側近のカールと、仕事の打ち合わせをすることになっていたのだ。
「奥様をほったらかして仕事していていいんですか?」
カールは部屋の隅──寝室及びフィーヌの私室に繋がるドアを見る。
「大丈夫だ。彼女には伝えた」
「なら、いいんですけど。馬車から降りてきた際に奥様のことをちらりと見ましたけど、えらい美人ですね」
「そうだな」
ホークは頷く。
長い赤茶色の髪を腰まで垂らし、大きな緑眼は長いまつ毛で縁どられていた。すっきりとした鼻に紅を指した頬、ピンク色の唇……。彼女は控えめに言っても、美人だ。
「いつまでも婚約せずに粘った甲斐がありましたね」
「粘ったわけではない。ロサイダー家に嫁ぐに適任だと思える女性がいなかっただけだ」
「奥様は適任だと? 閣下がこんなに面くいだとは知りませんでした」
「違う、面食いではない。彼女は見た目は可憐だが、肝が据わっているんだ」
ホークはやんわりと〝面くい〟という言葉を否定する。
嫁が美人に越したことはないが、フィーヌに求婚したのはそんな理由からではない。