拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
「この剣と全知全能の神に誓おう。きみには辺境伯夫人にふさわしい待遇を用意する。見返りには……そうだな、きみが俺を裏切らないことだ。これでいいか?」
「はい」
フィーヌは頷く。
「では、きみも誓いを」
促されて、フィーヌはホークの握る剣の柄に手を添える。
フィーヌの横顔からは、緊張の色が見て取れた。彼女はすうっと息を吸って深呼吸する。
「この剣と全知全能の神に誓います。この地にいる間はロサイダー領のために全身全霊で尽くしましょう。見返りには、二年間子供を作らないことを」
「なんだと?」
──二年間子供を作らない。
完全に予想外だった。ホークが結婚した理由は辺境伯家の後継ぎをもうける必要があったからだ。それはフィーヌも理解しているはず。
(となると、理由はひとつか)
二年。
いくら子供ができにくくても二年あれば妊娠するものだというのがこの国の多くの医師の見解だ。だから、二年経てば離婚申し立てが認可される可能性が格段に上がる。
(俺と一生を共にするつもりはないということか)
美しい顔をして随分酷いことをする女だと思った。しかも、理由を尋ねると性懲りもなくまだ領地を豊かにすることに専念したいからなどと、もっともらしい言い訳を言っている。
(面白い)
この契約を結べば、フィーヌは浮気できない。ホークを裏切れば、死ぬような苦痛に見舞われるのだから。
新しい男がいるわけでもないだろうに、一体何を考えているのだろうと知りたくなる。
フィーヌは自分の行動がますますホークの興味を惹く原因になることに気付いていないのだろうか。
お互いの血を剣に垂らし、誓約が成立した。