拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
けれど、バナージからフィーナにかけられたのは感謝の言葉でもねぎらいの言葉でもなかった。
『これが自分の力だとでも言いたいのか? とんだ強欲の自信家だな』
心底軽蔑するように吐き捨てられたときのショックを、フィーヌは一生忘れないだろう。
更に、彼はダイナー公爵領で作物がよく育つのが神恵によるものならば、それはレイナの〝緑の手〟の力のおかげだと主張した。
(レイナの〝緑の手〟の力の恩恵が全くないとは言わないけど、私の神恵のほうが役に立ってたと思うんだけどな)
緑の手の力は植物の発育促進だが、レイナは力が弱く、ある特定の苗の成長を早めることや、病気の樹木を直すことしかできないのだから──。
もしもアンナがホークにフィーヌの神恵について話せば、ホークもバナージのように、フィーヌがアンナを使って恩着せがましく自分の功績を主張してきたと感じるかもしれない。
フィーヌだって、人の心がある。頑張った事実を否定されると、傷つくのだ。
だから、わざわざ自分が傷つく原因を作るようなことをしたくなかった。
「かしこまりました。でも、残念です。奥様が評価されるいい機会ですのに」
「そうだそうだ。オイラのフィーヌはもっと褒められていいんだぞ!」
残念そうにするアンナに、ヴァルが合いの手を入れる。
「いいのよ。そんなの気にしなくて」
「奥様は本当に控えめですね。結婚式もしない、ドレスもいらない、宝石もいらない──」
「あら。わたくし、意外と強欲なのよ? 欲しいものは絶対に手を入れるもの」
「欲しいもの、ですか?」
アンナは不思議そうに聞き返す。
「ええ、そうよ」
フィーヌはふふっと笑う。
いつか、フィーヌだけを愛してくれる人と幸せな時間を共有し、生きていきたい。
そんな穏やかな未来が欲しい。