拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
「では、頼んだぞ」
「はい」
ホークはひとり、屋敷へと馬を走らせた。
屋敷に戻ったホークは、厩舎に馬を置くとすぐにフィーヌの部屋を訪ねた。しかし、あいにく不在にしているようで誰もいない。
(どこに行ったんだ?)
主不在の部屋の執務机には、無造作に資料が広げられていた。そして、広げられたノートには様々な走り書きをしてある。
その内容から、ホークはフィーヌがロサイダー領の税収の情報から医療福祉、教育、産業構造など様々な情報を、彼女は自分なりにノートにまとめているようだと理解した。
(この短期間でこれを? 大したものだな)
結婚した日に、ロサイダー領のために尽力すると宣言したフィーヌの姿が脳裏に蘇る。彼女は約束を守ろうと努力してくれているのだろう。
「探しに行ってみるか」
今のところ、フィーヌが屋敷の外に無断で出かけたことはない。食事を共にするとき、その日は何をして過ごしていたのか聞くと図書室に入った話や外を散歩した話をよくしているので、そのどちらかだろうと当たりを付ける。
(もしあの現象が彼女の力だとすると──)
ホークは考える。
ショット侯爵家もダイナー公爵領も国内有数の豊かな地域だが、歴史を紐解けばどちらもそこまで目立つ地域ではなかった。ロサイダー領のように荒野だとは言わないが、ごくごく普通の平凡な地域だ。
それが急激に豊かになったのは、ここ十年ほどではないだろうか。
フィーヌの神恵のおかげだったとすれば、時期的にも合う。
「ますます手放せないな」
フィーヌはホークとどこか線引きしようとする。必要以上に踏み込むのをためらい、近づいても距離をとろうとするのだ。