拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
(獲物は手ごわいほどやる気が出る)
ホークはフィーヌのことを考え、口元に笑みを浮かべる。
どんなに巧妙に逃げようとも、逃すつもりはなかった。
◇ ◇ ◇
一方その頃、フィーヌは屋敷内の散歩をしていた。
「見てください、奥様。しっかり育っています。もしかしたら、蕾が付くかも」
はしゃいだような声を上げて通路脇を指さすのはアンナだ。
フィーヌは二週間前にヴァルの力を借りて屋敷内の土を改良したのち、アンナに頼んで花の苗を植えてもらうよう使用人に指示した。
その苗がしっかりと土に根付き、青々と葉が茂っている。
「これはパンジーよね?」
「はい。もう秋なので、冬に咲く花を選びました」
「さすがアンナは気が利くわね。ありがとう」
「お礼を言うのはこちらのほうです。奥様のおかげで楽しみが増えました」
にこにこするアンナの様子から、本当に彼女が喜んでくれていると感じた。
王都にいるときはこんな風に喜ばれたことはなかったので、胸の奥がむず痒い。
「屋敷周りをぐるりと歩いてみない? ここ以外にも植えたのでしょう?」
「はい。庭師に頼んで色々と植えていただいてます」
アンナは上機嫌に頷く。
ロサイダー辺境伯家は広大な敷地を有している。
敷地内に馬術練習場や射撃場、大型訓練場まであり、のんびり一周するだけですぐに一時間くらい過ぎてしまう。
そして、それだけ広いと花を植えるスペースもたくさんあるのだ。