拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく

 アンナと路傍の野草を眺めながら屋敷の裏手に差し掛かったとき、ふと前方から男たちの勇ましい声が聞こえてきた。
 フィーヌは声がしたほうに目を凝らす。

「訓練場で戦士たちが訓練しているのでしょう」
「そのようね」
「奥様、その……少しだけ見に行ってみませんか?」
「もちろんよ。彼がいるといいわね」

 フィーヌはフフッと笑う。すると、アンナはほんのりと頬を赤らめた。

 アンナが密かに想いを寄せる幼馴染の青年がここロサイダー領の戦士だと知ったのは、つい先日のことだ。たまたま訓練しているところに遭遇して、アンナの態度で気づいた。
 アンナは片思いだと言っていたが、フィーヌが見る限りあながち一方通行の恋ではないように見えた。

 フィーヌはアンナと一緒に訓練場の入り口から中を覗く。
 円形の施設は周囲が試合などをする際の観客席になっており、中央が訓練するための広場だ。広場では数十人の戦士が剣の訓練をしているのが見えた。
 
「あっ」

 広場を見つめるアンナが声を漏らす。
 フィーヌが横顔を窺うと、彼女は広場の一点をじっと見つめていた。きっと、意中の彼を見つけたのだろう。

(ふふっ。可愛い。もう少しだけここで時間を潰そうかしら)

 思わず笑みが零れる。
 フィーヌの最近の関心毎のひとつは、この恋がいつ成就するかを見守ることだ。

 飽きることなく訓練を見守るアンナに付き合ってフィーヌも訓練の様子を眺めた。
 剣がぶつかり合うたびに金属の音が辺りに響く。

(さすがに実戦を重ねてきた戦士だけあるわね。もしかしたら、王都の騎士よりも強いかも)
 
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