拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
まるで、今初めて花が咲いていることに気付いたかのような様子だ。
(違うの?)
フィーヌは困惑した。
花の苗を植えたのが気に入らないのでなければ、なぜ自分に会いに来たのか、ますます理由がわからない。
「俺はきみにロサイダー辺境伯夫人にふさわしい待遇を用意すると言った。それは、この屋敷を執り仕切る権限も含まれる。花は好きにすればいい」
「……ありがとうございます。ちなみにその〝屋敷を執り仕切る権限〟には、人事権も含まれますか?」
「もちろん。誰か気に入らない者でもいたのか?」
「いいえ」
フィーヌは首を横に振る。
(この人、厨房に愛人がいるのに、わたくしに人事権を渡していいのかしら?)
他人事ながらに、心配になる。一体フィーヌがシェリーを解雇したらどうするつもりなのかと思ったが、フィーヌには関係のないことだと思い直す。
どうせ二年で離縁するのだ。
「ところで、お話というのは?」
「ここではなんだから、屋敷に戻らないか?」
「かしこまりました」
フィーヌは頷くと、アンナのほうを振り返る。
「アンナ。わたくしは閣下と先に屋敷に戻っているから、ゆっくりしてきて」
「え? わたくしも一緒に戻ります」
「いいのよ。閣下がいるから迷子になる心配もないし」
ぱちんとウインクすると、アンナは頬を少し赤らめて「ありがとうございます」とお辞儀した。本当はもっと彼の姿を見ていたかったのだろう。
「さあ、戻りましょう」
「そうだな」
ホークが片腕を差し出したので、フィーヌはありがたくエスコートをお願いすることにした。