拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく

 まるで、今初めて花が咲いていることに気付いたかのような様子だ。
 
(違うの?)

 フィーヌは困惑した。
 花の苗を植えたのが気に入らないのでなければ、なぜ自分に会いに来たのか、ますます理由がわからない。
 
「俺はきみにロサイダー辺境伯夫人にふさわしい待遇を用意すると言った。それは、この屋敷を執り仕切る権限も含まれる。花は好きにすればいい」
「……ありがとうございます。ちなみにその〝屋敷を執り仕切る権限〟には、人事権も含まれますか?」
「もちろん。誰か気に入らない者でもいたのか?」
「いいえ」

 フィーヌは首を横に振る。

(この人、厨房に愛人がいるのに、わたくしに人事権を渡していいのかしら?)

 他人事ながらに、心配になる。一体フィーヌがシェリーを解雇したらどうするつもりなのかと思ったが、フィーヌには関係のないことだと思い直す。
 どうせ二年で離縁するのだ。

「ところで、お話というのは?」
「ここではなんだから、屋敷に戻らないか?」
「かしこまりました」

 フィーヌは頷くと、アンナのほうを振り返る。

「アンナ。わたくしは閣下と先に屋敷に戻っているから、ゆっくりしてきて」
「え? わたくしも一緒に戻ります」
「いいのよ。閣下がいるから迷子になる心配もないし」

 ぱちんとウインクすると、アンナは頬を少し赤らめて「ありがとうございます」とお辞儀した。本当はもっと彼の姿を見ていたかったのだろう。

「さあ、戻りましょう」
「そうだな」

 ホークが片腕を差し出したので、フィーヌはありがたくエスコートをお願いすることにした。
< 64 / 193 >

この作品をシェア

pagetop