拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
「さっきの侍女、ずいぶんと熱心に訓練の様子を見入っていたが女戦士にでもなりたいのか?」
「まさか。女性が男性を見つめていたら、理由はふたつしかありません。好意か警戒です」
「なるほど。よく覚えておこう」
ホークは興味深げに相槌を打つ。
「言われてみれば、結婚した最初の日、きみは俺から一切目を逸らさず見つめてきたな?」
「そうでしょうか? 覚えておりません」
「あんなに真っ直ぐ見つめてきたくせに、つれないな。ふたりの初めての夜だったのに」
「からかっているのですか?」
じとっと睨み付けると、ホークはくくっと肩を揺らして笑う。
(ホーク様って、いまいち掴み切れないわ)
一緒に暮らし始めて早ひと月半。
ホークは『辺境伯夫人にふさわしい待遇を用意する』と宣言した通り、決してフィーヌを蔑ろにしたりはしない。
食事も一日一回は一緒に摂るように時間を調整してくれているし、夜もフィーヌの元を訪ねてくる。
子供を作らないのだから寝室に来る必要はないと再三にわたって訴えたが、聞く耳なしだ。
きっと、屋敷の人々はアンナも含めて皆がホークとフィーヌを理想的な夫婦だと思っているだろう。
(『二年間は子供を作らない』じゃなくて『二年間は身体的接触をしない』にすべきだったわ)
まさか、フィーヌの望みに対してああ出てくるとは完全に予想外だった。
(昨晩だってあんなに執拗に──)
そこまで考え、羞恥でカーッと顔が赤くなる。
すると、ホークはすぐにフィーヌのちょっとした変化に気付いた。
「暑いのか?」
「な、なんでもありません!」
フィーヌの慌てた様子に、ホークは首を傾げたのだった。