拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
フィーヌは手に持っていたカップから顔を上げる。
「どうしてわたくしの神恵だと、確信をもって仰るのですか?」
「少し考えれば明らかだろう。こんなことをできる力としてすぐに思いつくのは『緑の手』だが、あいにくロサイダー領に『緑の手』の持ち主はいない。となると、急に変わったのはきみが土に何かしらの働きかけをしたからだと考えるのは当然だ」
「それもそうですね」
王都にいた際は、フィーヌのすぐ近くにいつも妹のレイナがいた。
レイナが『緑の手』の持ち主だったから、ダイナー公爵領やショット侯爵領が肥沃な大地なのはレイナのおかげなのだと、多くの人が思っていた。フィーヌの力だと気づいていたのは両親と、今は病床に伏しているダイナー公爵くらいのものだ。
だが、今レイナはここにいない。
となると、誰の力かと考えてフフィーヌの神恵のおかげだという考えに至るのは当然だった。
「土の精霊に呼びかけて、植物が育ちやすい土質に変えてもらいました」
「なるほど。どおりでダイナー公爵領もロサイダー侯爵領も十数年前から急に農作物生産量が増えたわけだ」
ホークは頷く。
「わたくしの力ではなく、妹の力だとは思わないのですか? わたくしの妹のレイナの神恵は『緑の手』です」
「思わないな。緑の手は植物の生長を促すが、それは持続性を持つものではない。広大な領地に常に神恵を使い続けることなど普通に考えて無理だ。逆に、きみの神恵は精霊に呼びかけて土の精質そのものを変えることができる。どちらの功績かは明らかだ」
フィーヌはホークの言葉に目を見開く。
(まだ出会ってさほど経っていないし、わたくしの神恵についても詳しく話していないのに──)
正直、一を言って十を知るとはこういう人のことを言うのだろうと思った。
(バナージ様がこの方を嫌っていた理由がわかったわ。さぞかし優秀だったのね。バナージ様が全く敵わないくらい)
その場にいたわけでもないのに、バナージが優秀なホークに一方的に嫉妬して敵意を募らせるようすが手に取るように分かった。