拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 目的地まで馬車で通れる道が整備されていないため移動は馬を使うしかないのだが、あいにくフィーヌは乗馬ができなかった。
 令嬢であっても十代半ば位には乗馬を習うことが多いのだが、バナージがフィーヌが乗馬を習うことを嫌がったので、習うことができなかったのだ。

(乗馬ができたら、好きな場所に自由に行けるようになるんだろうな)

 当時は落馬して怪我をしたら大変だとかもっともらしい理由を言われて言うことを聞いていたのだが、いま思えば反抗してでも習っておけばよかったと思う。

「フィーヌ。体は辛くないか?」
「はい。大丈夫です」
「疲れたら寄りかかっていいからな」
「ありがとうございます」

 背後から手綱を握るホークが、フィーヌを気遣う。

「そんなに心配なさらなくても平気ですよ。意外と丈夫ですから」
「よく言う。こんなに細くて華奢なくせに」

 ホークの腕がフィーヌの腰に回され、フィーヌはドキッとする。
 
「ホーク様はお優しいですね」

 胸のドキドキを悟られないように、フィーヌは努めて明るい声で話しかける。

「妻に優しくするのは、当然だろう?」

< 82 / 193 >

この作品をシェア

pagetop