あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
「慶翔、こっちへいらっしゃい」

 ひなは呼ぶが、慶翔は慶一郎の膝の上がお気に入りだ。
 持っていた絵本を卓の上に広げる。
 
「絵本、よんで」

 無邪気な息子の姿に、ひなと慶一郎は顔を見合わせて微笑む。
 しかし、今は早乙女製薬の将来を左右するかもしれない話をしている。
 慶一郎は、慶翔の頭を撫でて優しく諭した。
 
「……今、大事な話をしてるんだ。あとでな」
「うん」

 そう言いながらも、慶翔は膝の上から降りようとしなかった。
 まるで、話が終わるのをじっと待つ小動物のように、ちょこんと座っている。

「……やっぱり、私の塗り薬は、青蓮草がないと作れません」

 切実な声でひなが話を続けると、慶翔はきょとんと首を傾げた。
 
「せいれんそう、ってなーに?」

 かわいらしく訊ねる息子に、ひなは紙と筆を取り出し、さらさらと花の絵を描いた。
 幾つも重なった花びらに、葉は細く、鋸歯状だ。

「こんな花。薄い青色でね、お薬の材料になるの。でも珍しい花だから、あんまり咲いていないのよ」

 絵をじっと見つめていた慶翔の眉が、ふと動いた。

「……これ、ぼく、見たことあるよ?」

「えっ!?」
「どこで!? いつ!?」

 思わず身を乗り出したひなに、慶翔は少し驚いたように目を丸くした。けれど、すぐに小さく首を傾げながら答える。
 
「うーんと……どこかは、わかんない。でも、おじちゃんと山菜とりに行ったときに見たの」
「おじちゃんって、嘉一さん……?」
「うん」

 ひなと慶一郎は顔を見合わせると、慌てて立ち上がった。
 勢いよく椿の間を飛び出し、裏庭の薪置き場へと向かう。

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