あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
 *

 
 それからの早乙女製薬は、大きく変わった。

 ひなの手によって作られた塗り薬は、早乙女製薬の研究開発部門によって製品化され、「ひな印のセイレン軟膏」と名付けられた。
 傷の治癒を早め、火傷や肌荒れにも効果を発揮するその万能薬は、湯治場での評判から、じわじわと知られるようになり、やがて全国へと名が知られるようになった。

 そして、その道を切り開く力となったのは、葛城家の投資であった。
 志を同じくする者と手を携え、共に未来を築く。沙都子の熱意と支援があったからこそ、金銭面では苦労することなく一歩を踏み出すことができたのだ。
 しかし、商品名に自分の名がついていることに、ひなは何とも言えない気恥ずかしさを覚えていた。

「……慶一郎様。この名前……どうにも慣れません。恥ずかしいです……」

 控えめに抗議すると、隣にいた慶一郎は涼しい顔で頷いた。

「ふむ。ではやはり、『ヒナセリン』のほうが良かったか?」
「もっとダメですっ!」

 火照った頬を押さえながら、ひなは思わず声を上げた。
 製品名を決めるとき、「おまえの名前を入れなければ意味がない」と言って聞かなかったのは、ほかでもない慶一郎だったのだ。
 
 新生・早乙女製薬の礎に立ったのは、一人の薬師と若き当主。
 そして、二人の想いは、薬と共に多くの人々の心を癒しながら、未来へと続いていくのだった。
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