あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜

16・結婚初夜【最終話】 ※

 式を終えた、その日の夜。
 ふたりは早乙女家の離れにある、古い客間に戻った。
 日が暮れた庭の奥、誰にも邪魔されないその空間に、夜の帳が静かに降りていく。
 慶翔は清栄に預けてあり、今宵だけは夫婦ふたりの時間だ。

 湯殿で軽く身を清めたあと、ひなは白梅の香りを纏い、薄紅の肌襦袢に袖を通していた。
 洗ったばかりの髪に櫛をとおし、鏡の前でふぅと息をつく。

 その背後から、ふわりと風のように気配が近づく。
 振り返ると、浴衣姿の慶一郎が静かに襖を閉めて立っていた。

 湯上がりの身体からはほのかに湯の香が立ち、濡れた黒髪が額に貼りついている。
 灯りに照らされた白い襟元、鎖骨のあたりにかかる滴が、異様に艶めかしかった。
 ひなの視線を感じたのか、彼はゆっくりと目を細めて笑みを浮かべる。

「待たせたな」
「……いえ」

 これから起こることを思うと、ひなは視線をやや伏せて微笑む。
 慶一郎はゆっくりと歩み寄ると、ひなのすぐ傍らに膝をついた。

「……やっと、二人きりだな」
 
 そっとひなの髪に手を伸ばし、指先で一房を優しくすくう。
 それだけで、ひなは胸がいっぱいになり頬を染める。

「はい……」
「だが、まだ夜は長い」

 ひなは、すすっと慶一郎のそばに寄り、その肩に甘えるように顔を預ける。
 その瞬間、彼の鼓動がわずかに跳ねるのがわかった。

「……あなたに、触れていいですか」

 囁くような問いかけに、慶一郎は目を細めて微笑む。

「もう、夫婦だ。遠慮は不要だろう?」

 その答えに、胸がきゅうっと締めつけられる。
 ゆっくりと顔が近づいてくる。
 薄く濡れた唇が触れた瞬間──ひなの身体に、ふわりと甘い痺れが走った。

「可愛いな……」

 囁かれた声が耳元でとろけて、理性の最後の糸を切っていくようだった。

 やがて、二人は布団の上に横たわる。
 慶一郎の腕がひなの腰に回り、その温もりが伝わる。
 ひなも自然に腕を回し、彼の背中を引き寄せた。

「……やっと、本当の意味でおまえを抱ける」
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