それが例え偽りの愛だとしても
一瞬で、身体がこわばった。

息が詰まる。声が出ない。

視線を彷徨わせていると、真人様がそっと身体を離した。

「……急ぎすぎだね。明日こそは、君を抱けるのに。」

その言葉に、胸が波打つ。

(……もしかして、真人様は私に——)

“欲情している?”

そう思った瞬間、脳裏に父の言葉が刺すようによみがえった。

「これでうまく子供でも作ってくれたら、妾腹と知れても離婚されないかもしれないな。」

——いや。

真人様は、私をそんなふうに見ていない。

優しく、丁寧に、ずっと向き合ってくれていた。

それでも。

私は、いま目の前にいるこの人を——

「騙している。」

なのに。

「……真人様」

気づけば、私はその名を呼んでいた。

嘘と罪と、恋と願いのすべてを飲み込んで——

それでも、**“手を伸ばしたかった”**のだ。

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