それが例え偽りの愛だとしても
ああ、私はこの方の“妻”として、大切にされているのだ。

「行ってらっしゃいませ。」

真人様の背中が門の向こうに消えるまで、私はずっと目で追っていた。

その時、そっと私の横に立ったのは、お義母様だった。

「沙奈さん。あなた、生け花や刺繍はできて?」

その問いに、私は少しだけ戸惑った。

裁縫なら多少できる。けれど刺繍となると、また別の話だ。

「……すみません。勉強不足で。」

正直に告げると、お義母様はやわらかく笑った。

「いいのよ。私も嫁いでから教わったのだから。焦らなくても、少しずつ覚えればいいわ。」

その言葉が、胸に染みた。

矢井田家という格式ある家に嫁いだプレッシャーで、張り詰めていた心が、少しだけ緩む。

「ありがとうございます。」

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