それが例え偽りの愛だとしても
その日、いつもより早い時刻に玄関から声が聞こえた。

「ただいま。」

思わず立ち上がって駆け寄った。

「あっ、旦那様。お帰りなさいませ。」

「今日は早く仕事が終わってね。」

優しい声に、心がふわりとほどける。

私は急いで帽子と鞄を受け取ると、真人様と一緒に部屋へと向かった。

その途中、ふと、彼の視線が居間に置かれた一輪挿しに止まった。

「これは……母の?」

「いえ。私が活けたんです。」

驚いたように目を見開いた真人様は、ふらりと花の前にしゃがみ込む。

白と淡い桃色の菊を組み合わせた、まだ不慣れな手つきの生け花だった。

けれど、丁寧に選び、何度もやり直してようやく形になったもの。

真人様は、しばらくその花を眺めていた。そして静かに言った。

「……美しいね。まるで君のようだ。」
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