それが例え偽りの愛だとしても
ばあやが帰っていく。その後ろ姿を見送る私の背中に、ふと冷たい気配が走った。

何かの視線。

感じて振り返ると、廊下の影から、数人の使用人がこちらを見ていた。

「え?……今のって、中林家のばあやよね?なんで余所余所しいの?」

「若奥様、妾腹だって言ってたけれど、本当?」

「そういえば……旦那様にしては、ずいぶん庶民的な顔だと思ってたのよね。」

ひそひそと、でもはっきりと聞こえる声。

視線が、好奇の色を帯びている。

心がぎゅっと縮んだ。

……やっぱり、知られたら、こうなるんだ。

真人様は、私を「沙奈」として見てくれている。けれど、世間は「妾腹」という色眼鏡で私を見る。

子供を産めば、守られる。そんな風にしか見られていない——そう思うと、足元がふらついた。
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