私の年下メガネくん
「私も、弟弟子だと思ってた」
「なんか嬉しいです」
 にこっと笑う彼に、楓子の胸が甘くしめつけられる。今までそっぽを向かれていた野良猫に懐かれたような達成感がある。

「ここは俺がおごります。迷惑かけたし、これからつきあってもらうんで」
「え?」
 驚く楓子に、彼は慌てて言い足す。
「買い物につきあってもらうってことです!」
「そうだよね」
 ははは、と笑いながらも、楓子の心臓はハイテンポでリズムを刻む。

 喫茶店を出たあとは、アパレルショップに行き、あれこれと選ぶ。
 結局、彼はまた黒いTシャツに白いシャツ、デニムを試着した。
 が、今までとは違まったくって見える。スリムなシャツでスタイルの良さが強調され、オフの日に変装したモデルのようだ。
「いつも無難に白と黒なんですけど、同じような服でもお店でこんなに違うんですね」
 試着した鏡の前で、彼はなんども角度を変えて眺めている。

「デザイン性かな。白と黒って、すごい安心感あるよね」
 楓子が同意すると、彼はにこっと笑みを返してくれた。それが妙にまぶしい。
 彼はその服に決めて清算し、着ていた服が入った袋を手に楓子に並ぶ。ただそれだけで楓子の胸は高鳴っていく。

「次はメガネだね」
「そうですね」
 葵の声はいつもと同じく平坦で、がっかりした。
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