私の年下メガネくん
 隣のビルのメガネショップに着くと、彼はセルフレームのコーナーに向かった。
「そういうフレームばっかり見るね。どうして?」
「俺の場合はレンズが厚くなってはみ出すので、これしか無理なんです」
 彼は今かけているメガネを外して見せてくれた。
「ほんとだ」
 頷きながらふとひとつの眼鏡を見る。青い細い金属フレームに長細い六角形がおしゃれだ。

「圧縮レンズなんてあるんだね。それだとこれもいけるかな。試しにかけてみて」
「これですか」
 彼は眼鏡をはずし、楓子が選んだメガネを試着する。が、前髪が垂れて隠れてしまう。

「見えづらい」
 彼は髪をかきあげ、至近距離で鏡に向かう。
「やっぱわかんねーな……どうですか?」
 振り向いた彼にどきっとした。髪をかき上げた姿にもメガネ姿にも、ときめくばかりだ。

「似合わない……かな」
 思わずそう言っていた。
 嘘だ。似合っている。どんなメガネも彼なら似合うだろう。
 だけど、嫌だった。素敵な彼を知られたくない。私だけの星でいてほしい。

「これ、どうかな。べっこう風で、今より明るくなると思う」
 自分の心の汚さを押し隠すように、楓子はセルフレームのメガネを彼に渡した。
「いつもと同じ形で安心感があるのに、ちょっと違うっていうのがいいですね。さすがの審美眼です」
 誉め言葉に、胸がまたきゅんとなる。きゅんきゅんしすぎで病気を疑うレベルだ。

 店員を呼んでフレームを渡し、視力をはかったりレンズを決めたり。あれこれとすませて楓子が代金を支払い、店を出た。メガネは一週間後に出来上がるという。
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