私の年下メガネくん
『私でよければ。予定は合わせられるので、いつでも』
 えいっと返信ボタンを押してから、無愛想だったかな、と後悔する。

『ありがとうございます。また連絡します』
 帰って来たのは、彼らしいそっけない文章。
 なのに、楓子の胸は最高に浮き上がった。



 約束した翌週の土曜日まではあっという間だった。
 夢華の嫌味は気持ちよく流せるし、ほめられて調子に乗る晃司を注意するのも重すぎずにできたと思う。
 当日はお気に入りのワンピースを着て行った。
 前と同じ金時計の下で、十一時半の待ち合わせだ。

 葵はこの前買ったひと揃いを着て現れ、ほれぼれした。ぼさっとした髪が無造作ヘアに見えてくるから不思議だ。
「きれいですね」
 そう言う彼が照れた様子を見せていて、楓子もまた照れた。
「ありがとう。風屋くんも……」
 後半は言葉にならなくて、もにょもにょと消えていく。

「え?」
「なんでもない。行こうか」
 ほてった顔を隠すように、楓子は彼の前を歩いた。
 一緒に食事をしてからメガネショップに着くと、彼はセルフレーム以外も見て回った。

「圧縮レンズにしてみようかな」
 金属の細いフレームを持ち、彼が言う。
「レンズが軽くなったらメガネがズレにくくなるかも」
「そういえばそうですね」

「あ、これかわいい!」
 楓子が思わず手にしたのは、内側に猫の肉球の滑り止めが付いた細いセルフレームだった。
「いいですね。内緒のおしゃれみたいな」
 彼が言うからフレームを手渡す。細い黒ぶちフレームにピンクの肉球がキュートだ。
「これにします」
「え、いいの?」
 彼のイメージとはかなり離れている気がして、楓子は驚いた。


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