私の年下メガネくん



 月曜日、出勤後に自席にいた楓子は、ざわめきに顔を上げた。
 フロアにいる全員が、入って来た男性に注目している。
 背の高いイケメンだ。黒髪はなめらかで艶やか。痩身にスーツが似合っていて、白いシャツには青地に細い黄のストライプのネクタイを合わせ、メリハリが効いていた。

「誰?」
「あんな人いた?」
 視線を浴びた男性は恥ずかしそうに俯いていたが、楓子を見て顔をほころばせた。
 ぽかんとする楓子につかつかと近寄り、前に立つ。

「見立ててもらったスーツに合わせて髪を切って、コンタクトにも挑戦しました。ならし期間なので、午後にはこの前買ったべっこうのメガネをかけます」
 照れた笑顔に、いつもの彼が重なる。
「ふふ。風屋くん、すごい変身したね」
「いい意味ですか?」

「もちろん!」
 楓子は満面の笑みを返す。
 まるで彼は星だ。こちらの思惑など関係なく自ら輝く。自分だけの星ではなくなったさみしさと同時に、自ら輝きを引き出した彼がまぶしい。

「風屋くん、雰囲気変わったね!」
 夢華が楓子を押しのけて割って入った。瞬間、葵の顔が能面と化す。
「恋でもしたの~? 夢華、嫉妬しちゃう☆」
 夢華が葵の腕をぽんと叩くと、彼は眉間にしわを寄せて身を引いた。

「それはセクハラに該当します」
「こわーい。課長みたい~。ぜんぜんセクハラじゃないのにぃ」
 上目遣いで葵を見て両手で自分の頬を包む。
 楓子は頭がくらくらした。嫌がる人に自分を押し出せる神経がすごい。
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