私の年下メガネくん
「土肥さん、話があります。一緒に会議室へ」
「私はないです」
 ぷうっと膨れる姿に、楓子はげんなりする。

「いいから来てください」
 強めに言って歩き出すと、彼女はしぶしぶついてきた。
 空いていた小会議室1で、座りもせずに楓子は言う。

「恋人の有無を聞たり身体的接触をしたりするのはセクハラの可能性があるので控えてください」
「私なら大丈夫です~」
 謎の自信にくらくらした。

「花蔵さん、モテない僻みをぶつけるの、やめてもらえます? みんな言ってますよ。ダサいから仕事しかないんだって」
 楓子は顔をひきつらせた。この挑発に怒ったら、虐められたと泣きわめくだろう。
「発言には気をつけて。話はそれだけです」
「こんな話でわざわざ移動とか、だる」
 ぼそっと小声で言い、夢華が先に退室していく。

 その背に、ぎゅっと拳を握りしめる。某ゲームの主人公みたいに火の球を投げられるなら、これでもかってくらいにぶつけてやるのに。せっかく恥をかかせないように移動したのに。
 もやもやを吐き出すように、楓子は大きく深呼吸をした。



 楓子は翌日、ブルーグリーンのワントーンコーデで出勤した。七分袖のカットソーがさわやかで、ミモレ丈のスカートが上品で気に入っている。髪は必死に外はねに巻いたあと、葵が買ってくれたバンスクリップで留めた。
 出勤した直後、ビルの玄関で葵と遭遇した。スーツにブルーのシャツを合わせていて、それもよく似合っていた。今日もメガネはかけていない。
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