私の年下メガネくん
「それもセクハラになる可能性があるんだけど、俺には言うんだ?」
 背中を見てこぼれたつぶやきは小さくて、自分にしか聞こえない。
 まるで牽制されたみたいだ。
 葵は缶コーヒーを飲みほした。甘ったるいのに、妙な苦さが舌に残った。

***

 パソコンを前に、楓子はうーんと唸っていた。
 小花を散らした布地のポーチ。かわいいが、多めに発注するかどうか。冬に向けて温かそうな色と生地感がいいし、汚れても洗えるところもいい。
 いつもは無難な数の発注だが、ここはひとつ、自分を信じてみようか。
 数字を入力しようとしたとき、画面の隅にしゅっと文字が現れた。

『今から小会議室1に来れるか』
 発信者は爽真で、どきっとした。いったいなんだろう。了解しました、と打ち込んで楓子は立ち上がる。
 それを見て爽真も立ち上がり、ふたりで小会議室に行く。

「すぐ終わる話なんだが」
 入った直後に爽真が言う。席を勧められないから、本当にすぐ終わる話なのだろう。
「なんでしょう」
 おずおずと尋ねると、爽真がふっと表情を緩めた。

「警戒するな。お礼を言いたいだけだ」
 珍しい微笑に、楓子はぽかんと彼を見る。
「今朝は……いや、いつも土肥を注意してくれて助かっている。俺が言うとセクハラにされる可能性があるから。女性に注意するのは非常に気を遣う」
 確かに彼女なら鬼の首でもとったかのように大騒ぎしそうだ。
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