私の年下メガネくん
 夢華は不機嫌を隠さず、フリースペースでノートパソコンを開いた。
 今日は朝礼後に爽真に呼び出され、書類作成を投げて帰ったことを怒られた。なぜか楓子が一緒にいたのが気に入らない。セクハラ、パワハラだと言われないための配慮だが、夢華にわかるはずもなかった。

「あいつが私を怒るように言ったのね。主任だからって!」
 もうひとりの事務は既婚だ。自分は人生をかけた重大な合コンがあったのだから、彼女が負担をして独身者の未来を拓くべきだ。
 主任も。自分が売れ残ってるからって、かわいい私に嫉妬して。

 楓子への怒りが湧いて、まったく仕事に集中できない。
 夢華は仕方なくネイルの情報サイトを開く。気持ちよく仕事をするための気分転換だ。楓子のような凡人には理解できないようだが、才能ある人には共感してもらえるはずだ。
 ラメとストーンでぎらぎらのネイルに目を輝かせ、サロンの予約をしようとしたとき。

「土肥さん」
 真後ろから降った声に、びくっと振り返る。そこには楓子が仁王立ちで立っていた。

「仕事をしてください」
「世間の流行を調べてただけです。この仕事にも役に立つから」

「あなたは事務です。事務の仕事をしてください。本日〆切の書類は必ず今日中に提出を」
「はぁい」
 夢華が唸るように返事をすると、楓子は自分の席へと帰っていく。

 たいして仕事もできないくせに威張って、本当に腹立つ。
 夢華はスマホとポーチを持って席を立った。
 気分転換に化粧室でゆっくりとメイクを直し、スマホでネイルサロンに予約を入れた。通販サイトを見て気分を直したあとは休憩コーナーに向かう。が、その歩みがふと止まる。
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