私の年下メガネくん
「土肥さん、今日も絶好調だったね」
「だけどいい歳して、ないわ。あれが許されるのは十代までっしょ」
 楓子は思わず無言でうんうんと頷く。

「土肥さんって柿田さん狙いだよね」
「でも社外に恋人がいるっしょ」

「奪うつもりらしいよ」
「こわっ! 前は鶴谷課長を狙ってたよね。あきらめたのか。でも課長、ほんとかっこいい」
「たまに褒めてくれるときの微笑がたまんないよねえ」
 飲み終えた彼女らは笑いながらフロアに戻っていく。

 楓子は首をかしげる。課長に微笑を披露してもらったことなんてあったっけ。
 まったく思い出せないまま、幻の笑顔は葵の姿を取り始める。

 彼が気になり始めたのははいつだっただろう。
 新卒で入社した彼は、当時まだ主任だった爽真に商品部のバイヤーとして鍛えられた。楓子も爽真に鍛えられたので、親近感を持っていた。
 爽真はなんども大ヒットを飛ばしており、楓子も中ヒットまではいけたことがある。
 葵はヒットに恵まれず、大人しいのもあってなめられがちで心配していた。

 なにか力になれないかな、と彼の仕入れと売り上げの実績を見て驚いた。
 彼の仕入れた商品は息が長く、年間の売上はほかの社員を上回っていた。が、葵がそれをひけらかしたことは一度もない。
 思わず彼を見ると、ずりおちるメガネを直すところだった。
 くすっと笑うと目が合って、彼は恥ずかしそうに目をそらした。
 直後、きゅんと胸が鳴った。

 それ以来、彼を目で追うようになった。
 そうして気がつく。頬の線がきれい。背が高くて姿勢が良くて、スタイルがいい。外見を整えたらどれだけかっこよくなるだろう。未発見の星を見つけたように、昂揚した。
 だけど、誰にも言えない。言いたくない。独り占めしたい。
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