私の年下メガネくん
 恋のような恋じゃないような、不定形な気持ちを抱え、気づけば彼の姿を探してしまう。
「やばいなあ、年下なんて」
 今までつきあったことがあるのは同級か年上だ。
 二歳差は近いようでいて、大きな谷が口をあけているように思える。彼は年上をどう思うだろう。

「お疲れ様です」
 声に顔をあげると、葵がいた。会釈をした彼は自販機でコーヒーを買ったあと、観葉植物で隔たれた隣のベンチに腰をかける。
 ふいの登場に、胸の中の鐘が早打ちで鳴らされる。

 話しかけるチャンス? でも上司に休憩を邪魔されたくないよね。
 だけど上司は部下の状況を確認するのも仕事で……。
 揺れた天秤ががたんと傾くと同時に立ち上がった。隣のベンチへの一歩を、崖っぷちのように慎重に進む。

「ちょっといい?」
 尋ねると、葵はずり落ちるメガネを直して楓子を見る。
「どうぞ」
 楓子はどきどきしながら隣に座った。

「商談、どうだった?」
「普通でした」
 このそっけなさに、最初は落ち込んだものだった。

「てことは商談成立だね。おめでとう」
「ありがとうございます」
 それだけで、会話が途切れた。
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