私の年下メガネくん
 爽真が再び葵を見て、ふっと笑って彼女を手放す。
 瞬間、葵の頭にカッと血が昇った。席を立ち、つかつかとふたりに歩み寄り、楓子を抱きしめる。
「楓子さん、大丈夫?」
 楓子が目をぱちぱちさせている。今まで名前で呼んだことなんて一度もない。なのに、会社で抱きしめて名前を呼ぶなんて、驚いて当たり前だろう。

「自重しろ。会社だぞ」
 あきれる爽真を、葵はにらみつける。
「離して」
 もがく楓子に、葵は仕方なく体を離した。

「彼女は俺の恋人です」
 うなるように言うと、爽真はあきれたように息をついた。

「子どもか。お前、何歳だっけ?」
「二十七歳です」
「俺より四つ下か。子どもだったな。支えただけでそんなに嫉妬するとはな」
 にやり、と笑う爽真に、楓子は慌てる。

「落ち着いて、風屋くん」
 自分を見上げる楓子の目が赤くて、葵はさらに爽真をにらみつける。彼女を泣かせるなんて、絶対にこの男を許せない。
「社内恋愛は禁止されていない。が、節度を持て」
 軽く言って、爽真は自席に戻っていく。

「風屋くん、今日は外で商談でしょ? そろそろ時間じゃない?」
 言い聞かせるような楓子の口調に、葵はぐっと唇をかみしめた。
 爽真のような大人の余裕は自分にはない。彼女にも下に見られていそうだ。彼女と並んで立ちたいのに、どうしたら認めてもらえるのか。

「わかりました」
 葵は席に戻ってバッグを持ち会社を出る。
 空は嫌味なくらいに青く澄み渡り、太陽がぎらぎらと輝いていた。
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