私の年下メガネくん
「必須の作業は終わったので、帰ります」
「ああ」
 爽真は席に戻り、退席する楓子を見守る。
 ひとりになるとデスクに肘をついて頭を載せた。

 そのまま彫像のように固まっていたが、ふと人の気配を感じて顔を上げる。
 入口に、商談から戻った葵が立っていた。
 彼はずかずかと歩いて来て爽真の前に立つ。

「課長、話があります」
「……聞こう」
 爽真は鋭い目を葵に向ける。
 葵は不機嫌な顔で口を開いた。

***

 楓子は自宅のベッドに足を抱え込んで座り、スマホを手に悩んでいた。
 どうしても通話ボタンを押せない。
 おそるおそる指を伸ばすが、直前で指が止まってしまう。何度それを繰り返しただろうか。 時計を見ると、すでに十時。 
 深呼吸をして覚悟を決め、えいっと押した。

 長々と呼び出し音が鳴ったあと、電話がつながる音がした。
 息を飲んだ耳に、
『ただいま電話にでることができません。御用の方は……』
 人工音声が届き、がっくりと肩を落として通話を切る。

 お風呂に入っているのだろうか。出るのが嫌だったのだろうか。
 疑問の次に、爽真の声がよみがえった。
『そんなに信頼がないのか?』
「違う。これから信頼を作っていくの。だから……」
 楓子はスマホでメッセージを作る。

『話がしたいの。時間を作ってもらえないかな』
 送信をして、どきどきしながら返事を待つ。
 が、いつまでたっても返信はなく、楓子は失望とともに眠りについた。
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