組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
35.京ちゃんを「京介さん」と呼ぶ女性
佐山文至に連れられて、無事家に帰ってきた殿様は、過去に猫を飼っていたことがあるという百合香の指導(?)のもと、短期間で猫用システムトイレを上手に使えるようになった。
「一回粗相をしちゃったんだけどね、それをトイレに入れておいて……トイレ行きたそうだな? って素振りを見せた時に連れて行ってたら……ちゃんとトイレだって認識してくれるようになったわ」
ニッコリ笑って芽生の枕元。膝に抱いた殿様を撫でる百合香からは、〝イロ〟についてあれ以上言及出来そうにない雰囲気が出ていた。
佐山は先に京介が宣言していた通り、本当に猫の飼育用品アレコレを設置――キャットタワーを組み立てる作業が主だった――し終えると、「お大事に」という言葉だけを残して帰ってしまった。
佐山は元々口数の多い方ではなかったけれど、久々だし……もう少しお話してくれてもよかったのに……と思ってしまった芽生である。
そうこうしている内に京介が帰って来て、百合香は「お店がオープンしたら来てね」と言い残して千崎とともに芽生の前から姿を消した。
芽生は、帰宅してきた京介が少し疲れているように感じて、千崎が京介も自分も徹夜明けだと言っていたのを思い出した。
「京ちゃん、殿様がいてくれるから大丈夫だよ? 少し眠って?」
帰り際、百合香から渡された殿様を抱っこして言ったら、「お前も少し横になれ」と、芽生、殿様……の順で頭を撫でられる。
京介が寝室を出てすぐ、殿様も芽生の布団からスルリと抜け出して行ってしまったけれど、熱が上がり始める前に再度解熱鎮痛剤を飲んでおいたのが良かったのか、ピーク時ほどの辛さはなくて、寂しさも思ったほど感じなかった。
殿様が、佐山が買って来てくれたおもちゃをこちらへ持参してきて……芽生の眠っている寝室の片隅で遊んでいる姿が見えていたからかもしれない。
遊び疲れると、温かさを求めてのことだろう。芽生の布団の中へもぐりこんできてくれたから、芽生は京介が眠っている間もそんなに寂しさを感じずに済んだ。
あれから数日。残念ながらクリスマス(=誕生日)は過ぎてしまったけれど、芽生はすっかり熱も下がり、元気になった。
最初のうちこそおとなしめな遊びをしていた殿様も、段々本領発揮。このところは滅茶苦茶やんちゃになってきて、家の中を全速力で駆け回って、挙句の果てにカーテンへよじ登ったり、ソファで爪を研いで京介に「爪は爪とぎで研げ」と叱られたりして日々の生活に笑いと潤いを与えてくれている。
帰宅してすぐの頃こそまだ便が緩めで薬を飲ませないといけなかったけれど、今はコロコロのいいウンチ。それが芽生にはすごく嬉しかった。
殿様は芽生のことも京介のことも飼い主認定をしてくれたようで、遊び疲れると甘えてくれて……それが京介にも伝わるのか、憎まれ口を叩きながらも殿様に注がれる京介の視線はとても柔らかかった。
***
「佐山、無理言ってすまねぇな」
チャイムが鳴って程なくして、佐山文至が姿を見せる。
佐山が入ってくるなり、少しは記憶にあるのだろうか?
殿様が駆け寄ってきて、佐山にスリスリと身体を摺り寄せた。
悪意を持って接するような細波鳴矢にも愛想を振りまいてしまったような猫だ。元来人懐っこいところがあるんだろう。
今日は、芽生がインフルエンザでダウンして出来なかった誕生日とクリスマスのリベンジ。
芽生は今から京介と二人。日中は街中をデートして、ランチは京介と二人きりでフレンチを食べに行くことになっている。その上で、夜は京介のマンションへ相良組のみんなを招いてパーティーまで開いてくれるというから、芽生は朝からワクワクソワソワなのだ。
京介からそんな提案をされた時、「まだ幼い殿様を一匹残して外出しても平気かな?」と芽生が眉根を寄せたら、「じゃあ佐山に来てもらおう」と、京介が彼を呼んだのだった。
佐山は器用な男だから、殿様の面倒を見るついで。夜のパーティーへ向けて場のセッティングもしてくれるらしい。
芽生としては、インフルエンザで寝込んでいた時、ちょっとだけ顔を見た佐山だったけれど、あの日は百合香が一緒だったとはいえ京介がいなかったからだろう。用を済ませ次第、挨拶だけしてさっさと帰ってしまったのでほとんど話せなかった。
「ぶ……、佐、山さん、今日は色々とお世話になります」
どうしても〝ブンブン〟呼びが抜けきらない芽生が、ぎこちなく〝佐山さん〟と呼び掛け頭を下げたら、
「お久しぶりです、神田さん。体調良くなられたみたいで良かったです。お二人が戻られたらすぐ宴会が始められるようにしときますんで、カシラとの外出、楽しんできてください」
と、やけに距離感のある話し方をされてしまう。
そのことが何だか落ち着かなくて、眉根を寄せて京介を見上げたら、少しだけムッとした顔をされてしまった。
「佐山よ、俺も口止めしたわけじゃねぇ。多分石矢辺りから漏れてるだろうが、芽生は正式に俺のモンになったから」
言うなり、芽生の左手をグッと持ち上げて、例のチューリップモチーフの婚約指輪を佐山に見せ付ける。
「あ、あの……京ちゃん!?」
まさかこのタイミングでいきなりそんなことをされるとは思っていなかった芽生がビックリして京介を見上げたら、
「ってことで、こいつは近い将来、お前らの〝姐さん〟になる」
そう続けた上で、「芽生。面倒くせぇからブンブン呼び、解禁してやるよ」とそっぽを向かれた。
「え……?」
「言っても直んねぇんだろ? ……佐山のブンブン呼び」
言われて、(ひぇっ。バレてる!)と京介をオロオロと見つめた芽生に、「ただ、佐山だけそれだと他の奴らに示しが付かねぇ。なぁ、芽生。手始めに石矢にもつけてやれよ、可愛い愛称」とか。
「一回粗相をしちゃったんだけどね、それをトイレに入れておいて……トイレ行きたそうだな? って素振りを見せた時に連れて行ってたら……ちゃんとトイレだって認識してくれるようになったわ」
ニッコリ笑って芽生の枕元。膝に抱いた殿様を撫でる百合香からは、〝イロ〟についてあれ以上言及出来そうにない雰囲気が出ていた。
佐山は先に京介が宣言していた通り、本当に猫の飼育用品アレコレを設置――キャットタワーを組み立てる作業が主だった――し終えると、「お大事に」という言葉だけを残して帰ってしまった。
佐山は元々口数の多い方ではなかったけれど、久々だし……もう少しお話してくれてもよかったのに……と思ってしまった芽生である。
そうこうしている内に京介が帰って来て、百合香は「お店がオープンしたら来てね」と言い残して千崎とともに芽生の前から姿を消した。
芽生は、帰宅してきた京介が少し疲れているように感じて、千崎が京介も自分も徹夜明けだと言っていたのを思い出した。
「京ちゃん、殿様がいてくれるから大丈夫だよ? 少し眠って?」
帰り際、百合香から渡された殿様を抱っこして言ったら、「お前も少し横になれ」と、芽生、殿様……の順で頭を撫でられる。
京介が寝室を出てすぐ、殿様も芽生の布団からスルリと抜け出して行ってしまったけれど、熱が上がり始める前に再度解熱鎮痛剤を飲んでおいたのが良かったのか、ピーク時ほどの辛さはなくて、寂しさも思ったほど感じなかった。
殿様が、佐山が買って来てくれたおもちゃをこちらへ持参してきて……芽生の眠っている寝室の片隅で遊んでいる姿が見えていたからかもしれない。
遊び疲れると、温かさを求めてのことだろう。芽生の布団の中へもぐりこんできてくれたから、芽生は京介が眠っている間もそんなに寂しさを感じずに済んだ。
あれから数日。残念ながらクリスマス(=誕生日)は過ぎてしまったけれど、芽生はすっかり熱も下がり、元気になった。
最初のうちこそおとなしめな遊びをしていた殿様も、段々本領発揮。このところは滅茶苦茶やんちゃになってきて、家の中を全速力で駆け回って、挙句の果てにカーテンへよじ登ったり、ソファで爪を研いで京介に「爪は爪とぎで研げ」と叱られたりして日々の生活に笑いと潤いを与えてくれている。
帰宅してすぐの頃こそまだ便が緩めで薬を飲ませないといけなかったけれど、今はコロコロのいいウンチ。それが芽生にはすごく嬉しかった。
殿様は芽生のことも京介のことも飼い主認定をしてくれたようで、遊び疲れると甘えてくれて……それが京介にも伝わるのか、憎まれ口を叩きながらも殿様に注がれる京介の視線はとても柔らかかった。
***
「佐山、無理言ってすまねぇな」
チャイムが鳴って程なくして、佐山文至が姿を見せる。
佐山が入ってくるなり、少しは記憶にあるのだろうか?
殿様が駆け寄ってきて、佐山にスリスリと身体を摺り寄せた。
悪意を持って接するような細波鳴矢にも愛想を振りまいてしまったような猫だ。元来人懐っこいところがあるんだろう。
今日は、芽生がインフルエンザでダウンして出来なかった誕生日とクリスマスのリベンジ。
芽生は今から京介と二人。日中は街中をデートして、ランチは京介と二人きりでフレンチを食べに行くことになっている。その上で、夜は京介のマンションへ相良組のみんなを招いてパーティーまで開いてくれるというから、芽生は朝からワクワクソワソワなのだ。
京介からそんな提案をされた時、「まだ幼い殿様を一匹残して外出しても平気かな?」と芽生が眉根を寄せたら、「じゃあ佐山に来てもらおう」と、京介が彼を呼んだのだった。
佐山は器用な男だから、殿様の面倒を見るついで。夜のパーティーへ向けて場のセッティングもしてくれるらしい。
芽生としては、インフルエンザで寝込んでいた時、ちょっとだけ顔を見た佐山だったけれど、あの日は百合香が一緒だったとはいえ京介がいなかったからだろう。用を済ませ次第、挨拶だけしてさっさと帰ってしまったのでほとんど話せなかった。
「ぶ……、佐、山さん、今日は色々とお世話になります」
どうしても〝ブンブン〟呼びが抜けきらない芽生が、ぎこちなく〝佐山さん〟と呼び掛け頭を下げたら、
「お久しぶりです、神田さん。体調良くなられたみたいで良かったです。お二人が戻られたらすぐ宴会が始められるようにしときますんで、カシラとの外出、楽しんできてください」
と、やけに距離感のある話し方をされてしまう。
そのことが何だか落ち着かなくて、眉根を寄せて京介を見上げたら、少しだけムッとした顔をされてしまった。
「佐山よ、俺も口止めしたわけじゃねぇ。多分石矢辺りから漏れてるだろうが、芽生は正式に俺のモンになったから」
言うなり、芽生の左手をグッと持ち上げて、例のチューリップモチーフの婚約指輪を佐山に見せ付ける。
「あ、あの……京ちゃん!?」
まさかこのタイミングでいきなりそんなことをされるとは思っていなかった芽生がビックリして京介を見上げたら、
「ってことで、こいつは近い将来、お前らの〝姐さん〟になる」
そう続けた上で、「芽生。面倒くせぇからブンブン呼び、解禁してやるよ」とそっぽを向かれた。
「え……?」
「言っても直んねぇんだろ? ……佐山のブンブン呼び」
言われて、(ひぇっ。バレてる!)と京介をオロオロと見つめた芽生に、「ただ、佐山だけそれだと他の奴らに示しが付かねぇ。なぁ、芽生。手始めに石矢にもつけてやれよ、可愛い愛称」とか。