組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
「もぉ、芽生ちゃん。スマイルよ、スマイル! 芽生ちゃんも今の私を見て綺麗って言ってくれたじゃない? きっかけは腹立たしいけど、結果オーライよ?」
言って、芽生の頭をヨシヨシ、と撫でてくれてから、百合香が嬉しそうにポンッと手を打った。
「それにね。実はさっき、相良さんが新しいお店をすぐに用意してくれるって約束してくれたの♪ だから今はルンルンよ♪」
「京ちゃんが?」
「そうそう。あ、でも勘違いしないでね? 相良さんと私は上司と部下みたいな関係だから」
「え? 上司と、部下……?」
(それは、どういう意味だろう?)
百合香は別に相良組の組員ということもないだろう。だとしたら京介を百合香が上司と称するのには無理があるような?
何だか話が見えなくてキョトンとした芽生に、百合香が続ける。
「うちのお店ね、相良さんのところのしのぎ……、あ、えっと…《《活動費》》? にも貢献してるから、事業への投資みたいなものだって思ってくれたら。雄ちゃんからも、『折角だから前の店より大きいお店にしたらいい』って言われてるし、ある意味怪我の功名じゃない?」
要するに、京介の手掛けている〝事業?〟の一端を百合香のランジェリーショップも担っていたということかな? と認識した芽生である。
「火傷の分も上乗せして前のお店より内装も凝ったのにしてもらうつもり♪」
ふふふっと悪そうな笑みを浮かべて見せる百合香に、芽生はつられて笑ってしまう。
きっと百合香は、胸中では焼けてしまったお店のことを悲しんでいないはずがない。なのに気丈に振る舞って見せる百合香を見て、芽生は彼女みたいな女性になりたい、と強く希った。
それで、ポロリと口をついたのだ。
「……私も、千崎さんが百合香さんを大事にしてるみたいに、京ちゃんが大事にしたいって思ってくれるような……一人前の〝いろ〟になりたいです」
当たり前のように〝事業〟という言葉を使いこなす百合香を見習って、自分もちょっとだけ背伸びしてみただけ。
なのに――。
芽生がそう言った途端、百合香が驚いた顔をして芽生を見つめてくるから……芽生は何が何だか分からなくてドギマギしてしまう。
百合香はほんの少しだけ間を置いてから「芽生ちゃん。〝いろ〟って……どういう意味で言ってるの?」と穏やかに確認してきた。
「えっと……奥さんとか恋人。そういう大事な人、だと思っています」
芽生が思っているまま素直に答えると、百合香が困ったような微笑を浮かべた。
「芽生ちゃん、違うのよ。〝いろ〟っていうのはね、恋人じゃない。ほら、大人の男女の……割り切った関係……。愛人。……分かるでしょう?」
「え?」
「私は雄ちゃんの〝情婦〟って言われてるけど……彼女じゃないし……ましてや奥さんでもないってこと」
(イロは恋人の呼び名じゃ……ない?)
その悲しそうな表情を見て、芽生はインフルエンザによる頭痛よりも強く、胸の奥がズキッと痛んだ。
「だからね、芽生ちゃんは〝情婦〟なんか目指しちゃダメ。ちゃんと相良さんの〝奥さん〟になって?」
芽生は、千崎には〝奥さん〟がいると聞いたことがある。だったら、奥さんじゃないという百合香と千崎の関係は……。
そこでふと、前に佐山たちが京介にも〝いろ〟がいると言っていたのを思い出した芽生は、恐る恐る。
「私、相良組の皆さんから、京ちゃんにも〝いろ〟がいるって聞いたことがあるんです。あれって……そういう、意味……だったんです……か?」
〝いろ〟が〝恋人〟じゃなく、本命以外の愛人を指すというのなら、芽生がいても京介はそういう女性たちとの縁を切らない可能性もあるということだろうか?
あの真面目で堅物そうに見える千崎ですらそうなのだから……。
芽生の質問に、答えは返ってこなかった。
ちょうどそのタイミングで玄関からチャイムの音が聞えてきて、百合香は「佐山さんかしら?」とまるで逃げるみたいに席を立った。
言って、芽生の頭をヨシヨシ、と撫でてくれてから、百合香が嬉しそうにポンッと手を打った。
「それにね。実はさっき、相良さんが新しいお店をすぐに用意してくれるって約束してくれたの♪ だから今はルンルンよ♪」
「京ちゃんが?」
「そうそう。あ、でも勘違いしないでね? 相良さんと私は上司と部下みたいな関係だから」
「え? 上司と、部下……?」
(それは、どういう意味だろう?)
百合香は別に相良組の組員ということもないだろう。だとしたら京介を百合香が上司と称するのには無理があるような?
何だか話が見えなくてキョトンとした芽生に、百合香が続ける。
「うちのお店ね、相良さんのところのしのぎ……、あ、えっと…《《活動費》》? にも貢献してるから、事業への投資みたいなものだって思ってくれたら。雄ちゃんからも、『折角だから前の店より大きいお店にしたらいい』って言われてるし、ある意味怪我の功名じゃない?」
要するに、京介の手掛けている〝事業?〟の一端を百合香のランジェリーショップも担っていたということかな? と認識した芽生である。
「火傷の分も上乗せして前のお店より内装も凝ったのにしてもらうつもり♪」
ふふふっと悪そうな笑みを浮かべて見せる百合香に、芽生はつられて笑ってしまう。
きっと百合香は、胸中では焼けてしまったお店のことを悲しんでいないはずがない。なのに気丈に振る舞って見せる百合香を見て、芽生は彼女みたいな女性になりたい、と強く希った。
それで、ポロリと口をついたのだ。
「……私も、千崎さんが百合香さんを大事にしてるみたいに、京ちゃんが大事にしたいって思ってくれるような……一人前の〝いろ〟になりたいです」
当たり前のように〝事業〟という言葉を使いこなす百合香を見習って、自分もちょっとだけ背伸びしてみただけ。
なのに――。
芽生がそう言った途端、百合香が驚いた顔をして芽生を見つめてくるから……芽生は何が何だか分からなくてドギマギしてしまう。
百合香はほんの少しだけ間を置いてから「芽生ちゃん。〝いろ〟って……どういう意味で言ってるの?」と穏やかに確認してきた。
「えっと……奥さんとか恋人。そういう大事な人、だと思っています」
芽生が思っているまま素直に答えると、百合香が困ったような微笑を浮かべた。
「芽生ちゃん、違うのよ。〝いろ〟っていうのはね、恋人じゃない。ほら、大人の男女の……割り切った関係……。愛人。……分かるでしょう?」
「え?」
「私は雄ちゃんの〝情婦〟って言われてるけど……彼女じゃないし……ましてや奥さんでもないってこと」
(イロは恋人の呼び名じゃ……ない?)
その悲しそうな表情を見て、芽生はインフルエンザによる頭痛よりも強く、胸の奥がズキッと痛んだ。
「だからね、芽生ちゃんは〝情婦〟なんか目指しちゃダメ。ちゃんと相良さんの〝奥さん〟になって?」
芽生は、千崎には〝奥さん〟がいると聞いたことがある。だったら、奥さんじゃないという百合香と千崎の関係は……。
そこでふと、前に佐山たちが京介にも〝いろ〟がいると言っていたのを思い出した芽生は、恐る恐る。
「私、相良組の皆さんから、京ちゃんにも〝いろ〟がいるって聞いたことがあるんです。あれって……そういう、意味……だったんです……か?」
〝いろ〟が〝恋人〟じゃなく、本命以外の愛人を指すというのなら、芽生がいても京介はそういう女性たちとの縁を切らない可能性もあるということだろうか?
あの真面目で堅物そうに見える千崎ですらそうなのだから……。
芽生の質問に、答えは返ってこなかった。
ちょうどそのタイミングで玄関からチャイムの音が聞えてきて、百合香は「佐山さんかしら?」とまるで逃げるみたいに席を立った。