組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
だからといって千崎の妻になった女――雪絵――を見ても、澄ました態度の奥、彼女が千崎のことを憎からず思っている様も伝わってきたから……京介は口出しするのを控えたのだ。百合香のことは気の毒に思ったが、千崎と百合香が話し合ってそうすると決めたのなら、外部がとやかくいうのは野暮というもの。自分には何も言えないと口を噤んだ。
千崎ですらそうだったのだ。
当然、京介にだって了道が口を出さないわけがなかった。
実際、今までも何度も組の息が掛かった女との婚姻を打診されていたのを、「まだそんなつもりはありませんので」とのらりくらりと躱してきた京介である。
だが――。
芽生のことを持ち出されては、今までのように〝結婚する気はない〟と逃げるわけにはいかなかった。
結局不義理だと理解していながらも、切り殺される覚悟でハッキリと、『芽生以外の女を娶るつもりはありません。自分が心に決めた相手は彼女だけです』と了道に宣言してしまったのだが、自分が親父にそう告げた時の、千崎の表情が今でも脳裏にこびりついている。
そうして、てっきり激怒するとばかり思っていた了道が、案外すんなりと「そうか……」と告げて引き下がってくれたことにも驚かされたのだ。
あれを見た千崎が、自分のときと重ねなかったとは考えにくい。
もし千崎が京介と同じように百合香以外とは結婚できないと答えていたならば、現状は変わっていたのだろうか?
そんな考えても仕方のないことを、つい思ってしまった京介である。
とはいえ――。
あれっきり、了道がだんまりなのはある意味不気味だとも思っている。
(オヤジは基本、筋は通す人間だ)
そこでふと、京介は自分が児童養護施設『陽だまり』を出て数年後――十七の頃にあった、了道との出会いに思いを馳せた。
***
京介は十三歳から十五歳までの二年間を陽だまりで過ごした。
学校の勉強は嫌いじゃなかったから結構真面目に学んだけれど、高校へ行こうという考えはなかった。
陽だまりの責任者・比田真理先生は『中学を卒業したら働く』と言い切った京介に、『就学支援金制度や授業料免除の制度など色々あるし、京くんが望むならいくらでも進学する方法はあるのよ?』と言ってくれた。
現に成績はかなり良かった京介である。
比田は進学を強く勧めてくれたのだけれど、これ以上他人様に面倒を掛けるのが嫌だった京介は、その申し出を固辞したのだ。
結局比田や担任の言葉を無視する形。何の資格もないままに社会へ出ることを決めた京介は、金を貯めてゆくゆくは車の運転免許を取りたいと思った。
ちょうどそんなときだったのだ。親友の長谷川将継が、『卒業後はどうするんだ?』と問うてきたのは――。
当然のように高校進学を考えているらしい将継に、京介は素直に無資格の中卒でも出来る住み込みの仕事を探して、車の免許を取るための資金を稼ぎたい旨を話した。
他の同級生らには何となく気後れして言えないようなことも、将継になら話すことが出来た。最初のうちこそ比田たちのように『働くのは高校を出たあとでも遅くない』と言ってきた将継だったが、京介の意志が固いと知ると、提案してきたのだ。
「うちの父親、建設会社の社長やってるんだけど……相良のこと、話してみてもいいかな?」
と――。
京介は将継の申し出を有難いと思いつつも、『親父さんの迷惑になるのだけは嫌だから、出来れば直接世話になるのは避けたい』と告げた。
実際、長谷川建設には寮制度がなかったから、『陽だまり』を出る気満々の京介は、将継の父親経由で寮制度のある土木工事会社『大洋土建』を紹介された。
そんな感じ。
中学卒業後、地元の進学校へ進んだ将継とは対照的に、京介は『大洋土建』へ、手元作業員として入社した。
運転免許が取れる年齢までまだ三年あったし、そこでコツコツと日々を重ねつつ、少ない給料の中からしっかりと貯金も増やしていく。そんな計画だ。
無資格者の京介が担う手元作業員の仕事は基本重労働。
現場での資材運びや、トラックからの荷下ろし、簡単な土木工事補佐やモルタル・生コンの撹拌作業など、肉体労働が主だったから食と睡眠はおろそかに出来ない。
千崎ですらそうだったのだ。
当然、京介にだって了道が口を出さないわけがなかった。
実際、今までも何度も組の息が掛かった女との婚姻を打診されていたのを、「まだそんなつもりはありませんので」とのらりくらりと躱してきた京介である。
だが――。
芽生のことを持ち出されては、今までのように〝結婚する気はない〟と逃げるわけにはいかなかった。
結局不義理だと理解していながらも、切り殺される覚悟でハッキリと、『芽生以外の女を娶るつもりはありません。自分が心に決めた相手は彼女だけです』と了道に宣言してしまったのだが、自分が親父にそう告げた時の、千崎の表情が今でも脳裏にこびりついている。
そうして、てっきり激怒するとばかり思っていた了道が、案外すんなりと「そうか……」と告げて引き下がってくれたことにも驚かされたのだ。
あれを見た千崎が、自分のときと重ねなかったとは考えにくい。
もし千崎が京介と同じように百合香以外とは結婚できないと答えていたならば、現状は変わっていたのだろうか?
そんな考えても仕方のないことを、つい思ってしまった京介である。
とはいえ――。
あれっきり、了道がだんまりなのはある意味不気味だとも思っている。
(オヤジは基本、筋は通す人間だ)
そこでふと、京介は自分が児童養護施設『陽だまり』を出て数年後――十七の頃にあった、了道との出会いに思いを馳せた。
***
京介は十三歳から十五歳までの二年間を陽だまりで過ごした。
学校の勉強は嫌いじゃなかったから結構真面目に学んだけれど、高校へ行こうという考えはなかった。
陽だまりの責任者・比田真理先生は『中学を卒業したら働く』と言い切った京介に、『就学支援金制度や授業料免除の制度など色々あるし、京くんが望むならいくらでも進学する方法はあるのよ?』と言ってくれた。
現に成績はかなり良かった京介である。
比田は進学を強く勧めてくれたのだけれど、これ以上他人様に面倒を掛けるのが嫌だった京介は、その申し出を固辞したのだ。
結局比田や担任の言葉を無視する形。何の資格もないままに社会へ出ることを決めた京介は、金を貯めてゆくゆくは車の運転免許を取りたいと思った。
ちょうどそんなときだったのだ。親友の長谷川将継が、『卒業後はどうするんだ?』と問うてきたのは――。
当然のように高校進学を考えているらしい将継に、京介は素直に無資格の中卒でも出来る住み込みの仕事を探して、車の免許を取るための資金を稼ぎたい旨を話した。
他の同級生らには何となく気後れして言えないようなことも、将継になら話すことが出来た。最初のうちこそ比田たちのように『働くのは高校を出たあとでも遅くない』と言ってきた将継だったが、京介の意志が固いと知ると、提案してきたのだ。
「うちの父親、建設会社の社長やってるんだけど……相良のこと、話してみてもいいかな?」
と――。
京介は将継の申し出を有難いと思いつつも、『親父さんの迷惑になるのだけは嫌だから、出来れば直接世話になるのは避けたい』と告げた。
実際、長谷川建設には寮制度がなかったから、『陽だまり』を出る気満々の京介は、将継の父親経由で寮制度のある土木工事会社『大洋土建』を紹介された。
そんな感じ。
中学卒業後、地元の進学校へ進んだ将継とは対照的に、京介は『大洋土建』へ、手元作業員として入社した。
運転免許が取れる年齢までまだ三年あったし、そこでコツコツと日々を重ねつつ、少ない給料の中からしっかりと貯金も増やしていく。そんな計画だ。
無資格者の京介が担う手元作業員の仕事は基本重労働。
現場での資材運びや、トラックからの荷下ろし、簡単な土木工事補佐やモルタル・生コンの撹拌作業など、肉体労働が主だったから食と睡眠はおろそかに出来ない。