組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
39.その名を呼んで*
芽生の誕生日兼クリスマスパーティーを数日遅れで祝ったあと。
アルコールが入っていた面々をタクシーに相乗りさせて送り出した芽生と京介である。
「静かになっちゃったね……」
皆でワイワイガヤガヤ騒ぎまくった後の静けさは何とも言えない雰囲気で、芽生は今更のように京介と二人きりになったことを意識しまくってしまう。
こんな時、ムードメーカーになってくれる殿様もあちこちで大勢の人たちに媚びを振りまくった結果、疲れてしまったんだろう。ソファの上にヘソ天状態で熟睡していた。
眠っているはずなのに薄っすら開いているように見える目と、半開きの口から覗く鋭い牙と小さな舌が可愛くて、思わず京介と二人で笑ってしまってから、思いのほか顔が近いことに気が付いてドギマギする。
「あ、あのっ。きょ……」
京ちゃん、といつも通り。目の前にいる愛しい男のことを呼ぼうとした芽生は、買い物の際に長谷川社長から聞かされた話を思い出して何となく躊躇ってしまった。
「ん? どうした?」
そのことを不審に思ったんだろう。京介が怪訝な顔をして芽生の顔を見つめてくる。
芽生は言うべきか言わざるべきか迷って……うまく切り出せなくて結局言葉に詰まった。
代わりに誤魔化すように「お腹いっぱいだね」と腹をさすったら、一瞬だけ何か言いたげな顔をした京介だったけれど、「ああ」と答えてくれて、内心ホッとする。
冷蔵庫には、京介が芽生の誕生日――十二月二十五日――合わせで頼んでくれていたバースデーケーキとは別で頼み直してくれたらしい生クリームケーキの残りが2ピース分入っていた。さすがにこんな満腹状態では、明日以降でないと食べられそうにない。
「《《前食べたのも》》すっごくすっごく美味しかったけど、《《今日のケーキも》》めっちゃ美味しかったね」
みんなでワイワイ言いながら切り分けて、切り方が下手くそで少々ぐしゃっとした雰囲気にはなってしまったけれど、それがまたアットホームな感じがして楽しかったなと思い出した芽生が、ふんわりと口元をほころばせる。
「あー。俺は前に食ったタルトの方が甘さ控えめで好みだったが……まぁ、お前がどっちも美味いと思ってくれたんならよかったよ」
言ってククッと笑った京介を見て、芽生は寝込んでいた時に京介が食べさせてくれた9号サイズの大きなケーキのことに思いを馳せた。あれは艶々にナパージュされたフルーツが宝石みたいに綺麗なタルトケーキだった。ふんだんに使われた甘さ控えめのカスタードクリームからは卵の風味がしっかりして本当に美味しかった。
さすがに二十三本も蝋燭を立てるのははばかられたので、2と3の形を模した蝋燭に火を灯して吹き消した後、二切れ分ほど京介と切り分けて食べてから、残りは相良組のみんなへ持って行ってもらったのだ。
「みんなはどっちが好きだったのかなぁ」
数日間の間に二つのケーキを食べることになるのを懸念してくれたんだろう。わざわざ違う種類のケーキを頼んでくれていた京介は、やはり気遣いの出来る人だ。
どちらにも芽生の誕生日を祝うメッセージが入っていたのには驚かされたけれど、同じ年に二度も……クリスマスケーキではなく〝バースデーケーキで〟お祝いしてもらえたことが、芽生は凄く新鮮で嬉しかった。
「私のために色々してくれて、本当に有難う、きょ……」
スッと口から出そうになった〝京ちゃん〟という言葉を何となく再度濁す形で不自然に語尾を誤魔化したら、そんな芽生の心の機微を感じ取ったんだろう。
京介が「バーカ。さっきから何、変な気ぃ遣ってやがる」と微笑んで、芽生の頭をポンポンと撫でてくる。
「長谷川から何の話を聞かされたのか知らねぇーが、お前はお前のままでいろ。――俺の名前を呼ぶことをいちいち躊躇うな」
買い出しから帰ってきてこっち、芽生が京介の名を呼ぶことを戸惑っていることに、彼は気付いていたんだろう。
小さな吐息とともに京介からそう言われた芽生は、大好きな男をじっと見上げた。
「いい、の……?」
「いいに決まってんだろ……。っていうか……」
そこでちらりと爆睡を決め込んでいる殿様に視線を投げかけて、京介が言う。
アルコールが入っていた面々をタクシーに相乗りさせて送り出した芽生と京介である。
「静かになっちゃったね……」
皆でワイワイガヤガヤ騒ぎまくった後の静けさは何とも言えない雰囲気で、芽生は今更のように京介と二人きりになったことを意識しまくってしまう。
こんな時、ムードメーカーになってくれる殿様もあちこちで大勢の人たちに媚びを振りまくった結果、疲れてしまったんだろう。ソファの上にヘソ天状態で熟睡していた。
眠っているはずなのに薄っすら開いているように見える目と、半開きの口から覗く鋭い牙と小さな舌が可愛くて、思わず京介と二人で笑ってしまってから、思いのほか顔が近いことに気が付いてドギマギする。
「あ、あのっ。きょ……」
京ちゃん、といつも通り。目の前にいる愛しい男のことを呼ぼうとした芽生は、買い物の際に長谷川社長から聞かされた話を思い出して何となく躊躇ってしまった。
「ん? どうした?」
そのことを不審に思ったんだろう。京介が怪訝な顔をして芽生の顔を見つめてくる。
芽生は言うべきか言わざるべきか迷って……うまく切り出せなくて結局言葉に詰まった。
代わりに誤魔化すように「お腹いっぱいだね」と腹をさすったら、一瞬だけ何か言いたげな顔をした京介だったけれど、「ああ」と答えてくれて、内心ホッとする。
冷蔵庫には、京介が芽生の誕生日――十二月二十五日――合わせで頼んでくれていたバースデーケーキとは別で頼み直してくれたらしい生クリームケーキの残りが2ピース分入っていた。さすがにこんな満腹状態では、明日以降でないと食べられそうにない。
「《《前食べたのも》》すっごくすっごく美味しかったけど、《《今日のケーキも》》めっちゃ美味しかったね」
みんなでワイワイ言いながら切り分けて、切り方が下手くそで少々ぐしゃっとした雰囲気にはなってしまったけれど、それがまたアットホームな感じがして楽しかったなと思い出した芽生が、ふんわりと口元をほころばせる。
「あー。俺は前に食ったタルトの方が甘さ控えめで好みだったが……まぁ、お前がどっちも美味いと思ってくれたんならよかったよ」
言ってククッと笑った京介を見て、芽生は寝込んでいた時に京介が食べさせてくれた9号サイズの大きなケーキのことに思いを馳せた。あれは艶々にナパージュされたフルーツが宝石みたいに綺麗なタルトケーキだった。ふんだんに使われた甘さ控えめのカスタードクリームからは卵の風味がしっかりして本当に美味しかった。
さすがに二十三本も蝋燭を立てるのははばかられたので、2と3の形を模した蝋燭に火を灯して吹き消した後、二切れ分ほど京介と切り分けて食べてから、残りは相良組のみんなへ持って行ってもらったのだ。
「みんなはどっちが好きだったのかなぁ」
数日間の間に二つのケーキを食べることになるのを懸念してくれたんだろう。わざわざ違う種類のケーキを頼んでくれていた京介は、やはり気遣いの出来る人だ。
どちらにも芽生の誕生日を祝うメッセージが入っていたのには驚かされたけれど、同じ年に二度も……クリスマスケーキではなく〝バースデーケーキで〟お祝いしてもらえたことが、芽生は凄く新鮮で嬉しかった。
「私のために色々してくれて、本当に有難う、きょ……」
スッと口から出そうになった〝京ちゃん〟という言葉を何となく再度濁す形で不自然に語尾を誤魔化したら、そんな芽生の心の機微を感じ取ったんだろう。
京介が「バーカ。さっきから何、変な気ぃ遣ってやがる」と微笑んで、芽生の頭をポンポンと撫でてくる。
「長谷川から何の話を聞かされたのか知らねぇーが、お前はお前のままでいろ。――俺の名前を呼ぶことをいちいち躊躇うな」
買い出しから帰ってきてこっち、芽生が京介の名を呼ぶことを戸惑っていることに、彼は気付いていたんだろう。
小さな吐息とともに京介からそう言われた芽生は、大好きな男をじっと見上げた。
「いい、の……?」
「いいに決まってんだろ……。っていうか……」
そこでちらりと爆睡を決め込んでいる殿様に視線を投げかけて、京介が言う。