組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
「芽生。会社への送り迎えは佐山に頼むんでいいか?」
本当は芽生とも面識のある石矢を付けようかとも思った京介だったけれど、送り先が長谷川建設ということもあってやめておいた。というのも石矢、元々は長谷川建設で働いていたことがあるのだが、ちょっと問題を起こして長谷川から自分へ預けられた経緯を持つ男だったからだ。
トラブルを起こした際、静月に怖い思いをさせた前科のある石矢だったが、今は静月との仲もある程度は修復されている。だが、他の従業員らの手前、解雇も同然の形で長谷川建設を破門された石矢を芽生の送り迎えに使うのは難ありだと判断したのだ。
「うん、大丈夫」
京介から自分の送り迎えは佐山にさせると言われた芽生は、初対面の時はすごく怖く思えた佐山という男が、よくよく話してみると物凄く気さくで話しやすい性格だと分かった。
というより、塩大福を二〇個という代替案は良くなかったらしいけれど、怖い思いをさせたはずの自分たち――というより佐山にとっては大切な存在の三井を懸命に庇おうとしてくれた芽生のことを仲間として認めてくれたらしい。
そんな佐山のことを思い出しながら一度はOKを出した芽生だったが、すぐさま申し訳なさが沸々と込み上げてきた。
「けど京ちゃん。……そんなにしてくれなくても私、バスとかで行けるよ?」
「攫われそうになったのを忘れたのか」
「いや、あれは京ちゃんがっ」
京介の言いつけを守らずに家を出て攫われたのは確かだけれど、あれは全部京介が芽生を試すために仕組んだ罠だったはずだ。それを引き合いに出されても……と眉根を寄せた芽生に、京介が続ける。
「外をフラフラほっつき歩いてたら、また細波に見つかるかも知んねぇぞ? それに――」
そこで言いにくそうに言いよどんでから、京介は胸ポケットから煙草を取り出して咥えようとして、芽生が目の前にいたからかグシャリと箱ごと握りつぶして元に戻した。
「さっきうちの事務所に来て分かったと思うが……お前は俺の女……身内だと思われてんだよ」
「それの何がいけないの?」
「俺の稼業考えたら良くねぇの、分かんだろ」
要するに、京介の弱点として自分が使われるかもしれないのだとハッとした芽生は、「ごめんね、京ちゃん」と力なくつぶやく。
「何でお前が謝んだよ」
「だって……」
「いや、むしろ俺の配慮が足りなかったせいでお前を巻き込んじまってすまねぇって謝らなきゃいけねぇのは俺の方だろ」
芽生の頭をワシワシ撫でながら、京介が「んな泣きそうな顔すんな。俺まで泣きたくなるわ」と、言葉裏腹にニヤリと笑う。
芽生はそんな京介を大きな目でじっと見つめると、
「私、勝手なことをして京ちゃんの足手まといにならないよう気を付ける」
消え入りそうな声で、京介に約束をした。
***
京介が仕事に出てしばらくしたら、佐山が芽生を迎えに来る。京介の仕事は時間が不規則だったりするので二人の外出が前後することもあるけれど、おおむねはそんな感じの生活がスタートした。
インターフォンを鳴らした主が佐山なのを確認出来たときのみ、部屋を出て下へ降りるというのを徹底するよう京介から約束させられた芽生は、自宅の不審火についてもまだ解決していないのだと聞かされて、とにかく用心するように言い聞かされた。
「ねぇ京ちゃん。私の家ってやっぱり放火だったの?」
そう問い掛けてみても京介は曖昧に返すだけでハッキリとした答えはくれない。けれど、彼がやたらとそのことを気にしていることから考えて、芽生もさすがに恐らくはそうなんだろうなと思わずにはいられなくて。その目的がただ単に火をつけるのが楽しかったからにせよ、《《別の目的》》があったにせよ、気を付けるに越したことはないなと思った。
本当は芽生とも面識のある石矢を付けようかとも思った京介だったけれど、送り先が長谷川建設ということもあってやめておいた。というのも石矢、元々は長谷川建設で働いていたことがあるのだが、ちょっと問題を起こして長谷川から自分へ預けられた経緯を持つ男だったからだ。
トラブルを起こした際、静月に怖い思いをさせた前科のある石矢だったが、今は静月との仲もある程度は修復されている。だが、他の従業員らの手前、解雇も同然の形で長谷川建設を破門された石矢を芽生の送り迎えに使うのは難ありだと判断したのだ。
「うん、大丈夫」
京介から自分の送り迎えは佐山にさせると言われた芽生は、初対面の時はすごく怖く思えた佐山という男が、よくよく話してみると物凄く気さくで話しやすい性格だと分かった。
というより、塩大福を二〇個という代替案は良くなかったらしいけれど、怖い思いをさせたはずの自分たち――というより佐山にとっては大切な存在の三井を懸命に庇おうとしてくれた芽生のことを仲間として認めてくれたらしい。
そんな佐山のことを思い出しながら一度はOKを出した芽生だったが、すぐさま申し訳なさが沸々と込み上げてきた。
「けど京ちゃん。……そんなにしてくれなくても私、バスとかで行けるよ?」
「攫われそうになったのを忘れたのか」
「いや、あれは京ちゃんがっ」
京介の言いつけを守らずに家を出て攫われたのは確かだけれど、あれは全部京介が芽生を試すために仕組んだ罠だったはずだ。それを引き合いに出されても……と眉根を寄せた芽生に、京介が続ける。
「外をフラフラほっつき歩いてたら、また細波に見つかるかも知んねぇぞ? それに――」
そこで言いにくそうに言いよどんでから、京介は胸ポケットから煙草を取り出して咥えようとして、芽生が目の前にいたからかグシャリと箱ごと握りつぶして元に戻した。
「さっきうちの事務所に来て分かったと思うが……お前は俺の女……身内だと思われてんだよ」
「それの何がいけないの?」
「俺の稼業考えたら良くねぇの、分かんだろ」
要するに、京介の弱点として自分が使われるかもしれないのだとハッとした芽生は、「ごめんね、京ちゃん」と力なくつぶやく。
「何でお前が謝んだよ」
「だって……」
「いや、むしろ俺の配慮が足りなかったせいでお前を巻き込んじまってすまねぇって謝らなきゃいけねぇのは俺の方だろ」
芽生の頭をワシワシ撫でながら、京介が「んな泣きそうな顔すんな。俺まで泣きたくなるわ」と、言葉裏腹にニヤリと笑う。
芽生はそんな京介を大きな目でじっと見つめると、
「私、勝手なことをして京ちゃんの足手まといにならないよう気を付ける」
消え入りそうな声で、京介に約束をした。
***
京介が仕事に出てしばらくしたら、佐山が芽生を迎えに来る。京介の仕事は時間が不規則だったりするので二人の外出が前後することもあるけれど、おおむねはそんな感じの生活がスタートした。
インターフォンを鳴らした主が佐山なのを確認出来たときのみ、部屋を出て下へ降りるというのを徹底するよう京介から約束させられた芽生は、自宅の不審火についてもまだ解決していないのだと聞かされて、とにかく用心するように言い聞かされた。
「ねぇ京ちゃん。私の家ってやっぱり放火だったの?」
そう問い掛けてみても京介は曖昧に返すだけでハッキリとした答えはくれない。けれど、彼がやたらとそのことを気にしていることから考えて、芽生もさすがに恐らくはそうなんだろうなと思わずにはいられなくて。その目的がただ単に火をつけるのが楽しかったからにせよ、《《別の目的》》があったにせよ、気を付けるに越したことはないなと思った。