組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
13.やっと見つけた!
ワオンモールは芽生にとって庭のような場所だ。一人暮らしをしていた頃から、休日にはよくバスへ乗って遊びにきていたから、何の売り場がどこにあるのか大体把握している。
三階に百円ショップや服飾売り場があるから、まずはそこを目指したい。百均で小さな卓上ツリーを買って、京介には紳士服売り場でネクタイを購入しようと目論んでいる。
長谷川建設の皆さんや、佐山、それから相良組の面々には一階にある洋菓子店を回って美味しそうな焼き菓子を買って渡せたらと思っているのだけれど。
(わー、どうしよう! みんなマスクしてる!)
このところ長谷川建設とマンションとの行き帰りしか外出をしていなくて失念していた。
季節はインフルエンザシーズン真っ盛り。ニュースで、今年はインフルエンザの罹患者数が例年になく多いと言っていたのを思い出した芽生は、今更のようにポケットからハンカチを取り出して口と鼻を覆った。もし自分が感染症に罹りでもしたら、京介にも迷惑をかけてしまう。それだけは何としても防ぎたかった。
(マスクも買わなきゃ……)
そう心に決めた芽生は、(まずは百均ね)とルートを定めて足早に歩き出す。
お目当てのクリスマスツリーもマスクも、季節ものだからだろう。比較的分かりやすい場所に置かれていてすぐに手に取ることが出来た。
けれど、会計に思いのほか手間取ってしまった。
百均はいつもそうだ。
なにかとレジに長蛇の列が出来がちで、買い物をしながら(今、空いてるな!?)と思っても、自分がレジへ行く頃には何故か順番待ちの列が出来ている。今日も正にそのパターンで、佐山の陰にビクビク怯えている時間勝負な芽生としては気が気じゃなかった。
無事会計を済ませてすぐ、買ったばかりのマスクをつけていそいそと紳士服売り場を目指した芽生は、京介に似合いそうなワインレッドのブランドものネクタイを一本買うと、プレゼント包装をしてもらうために一階のサービスカウンターを目指した。
レシートと一緒に、買ったばかりの商品をカウンター内の女性へ手渡して番号札を受け取ると、ちょっとだけ買い物をして来たい旨を彼女に告げて、すぐさま洋菓子店へ走った。
暖房の利いた店内でせかせかと走り回ったせいだろうか。凄く暑くなってきて、芽生は良くないと思いながらもマスクをあごへズラさずにはいられない。
呼吸が楽になって洋菓子店の前、(何を買おうかな?)と思いながら一息ついていたら、突然背後から「芽衣ちゃん!」と声を掛けられて、肩をポンッと叩かれた。
振り返らなくても《《ニオイで》》分かる。
「さ、ざなみ……さん……」
ギュッと身体をちぢこめるようにして恐る恐る振り返った芽生を、細波鳴矢が嬉しそうな顔でじっと見詰めて……。
「やっと見つけた!」
言うなり芽生の手首をギュッと掴んだ。
余りに突然なことで、芽生は声が出せなかった。
***
いくら何でも遅い。
腹が痛いと言っていたが、優に二〇分は経った。
佐山は見ちゃ悪いかと思って女子トイレの入り口付近が見通せない場所へ陣取っていたのだが、さすがに業を煮やして移動する。
そうして気付いたのだ。
(ちょっと待て、ここ……)
迂闊だった。
自分が塞いでいた通路とは反対側にも通り抜けられるようになっていたことに今更のように気が付いた佐山は、それでも念のためと女子トイレ前の壁にもたれ掛かって芽生の携帯電話を鳴らしてみる。
マナーモードにしていたとしても、バイブ音くらいは聞こえてくるかもしれないと思ったからだ。
トイレを出入りする女性たちから、奇異なものでも見るみたいにチラチラと視線を投げ掛けられたけれど、そんなの知ったことじゃない。
「神田さん! 大丈夫か!?」
一応トイレ内に向かって叫んでみたりもしたけれど、反応がない。それを確認して、ますます気持ちが急いた。
(くそっ。あの女、逃亡しやがった!)
今更だが、ソワソワと自分の顔色をうかがっていた芽生の様子を思い出した佐山は、チッと舌打ちをする。
(あいつが行きそうなところ――)
はやる気持ちを落ち着けながら考えを巡らせて、自分たちにペナルティを課すために、芽生が『たちばな庵』の塩大福を要求してきたことを思い出した佐山は「菓子屋……!」とつぶやいて、一階を目指した。
三階に百円ショップや服飾売り場があるから、まずはそこを目指したい。百均で小さな卓上ツリーを買って、京介には紳士服売り場でネクタイを購入しようと目論んでいる。
長谷川建設の皆さんや、佐山、それから相良組の面々には一階にある洋菓子店を回って美味しそうな焼き菓子を買って渡せたらと思っているのだけれど。
(わー、どうしよう! みんなマスクしてる!)
このところ長谷川建設とマンションとの行き帰りしか外出をしていなくて失念していた。
季節はインフルエンザシーズン真っ盛り。ニュースで、今年はインフルエンザの罹患者数が例年になく多いと言っていたのを思い出した芽生は、今更のようにポケットからハンカチを取り出して口と鼻を覆った。もし自分が感染症に罹りでもしたら、京介にも迷惑をかけてしまう。それだけは何としても防ぎたかった。
(マスクも買わなきゃ……)
そう心に決めた芽生は、(まずは百均ね)とルートを定めて足早に歩き出す。
お目当てのクリスマスツリーもマスクも、季節ものだからだろう。比較的分かりやすい場所に置かれていてすぐに手に取ることが出来た。
けれど、会計に思いのほか手間取ってしまった。
百均はいつもそうだ。
なにかとレジに長蛇の列が出来がちで、買い物をしながら(今、空いてるな!?)と思っても、自分がレジへ行く頃には何故か順番待ちの列が出来ている。今日も正にそのパターンで、佐山の陰にビクビク怯えている時間勝負な芽生としては気が気じゃなかった。
無事会計を済ませてすぐ、買ったばかりのマスクをつけていそいそと紳士服売り場を目指した芽生は、京介に似合いそうなワインレッドのブランドものネクタイを一本買うと、プレゼント包装をしてもらうために一階のサービスカウンターを目指した。
レシートと一緒に、買ったばかりの商品をカウンター内の女性へ手渡して番号札を受け取ると、ちょっとだけ買い物をして来たい旨を彼女に告げて、すぐさま洋菓子店へ走った。
暖房の利いた店内でせかせかと走り回ったせいだろうか。凄く暑くなってきて、芽生は良くないと思いながらもマスクをあごへズラさずにはいられない。
呼吸が楽になって洋菓子店の前、(何を買おうかな?)と思いながら一息ついていたら、突然背後から「芽衣ちゃん!」と声を掛けられて、肩をポンッと叩かれた。
振り返らなくても《《ニオイで》》分かる。
「さ、ざなみ……さん……」
ギュッと身体をちぢこめるようにして恐る恐る振り返った芽生を、細波鳴矢が嬉しそうな顔でじっと見詰めて……。
「やっと見つけた!」
言うなり芽生の手首をギュッと掴んだ。
余りに突然なことで、芽生は声が出せなかった。
***
いくら何でも遅い。
腹が痛いと言っていたが、優に二〇分は経った。
佐山は見ちゃ悪いかと思って女子トイレの入り口付近が見通せない場所へ陣取っていたのだが、さすがに業を煮やして移動する。
そうして気付いたのだ。
(ちょっと待て、ここ……)
迂闊だった。
自分が塞いでいた通路とは反対側にも通り抜けられるようになっていたことに今更のように気が付いた佐山は、それでも念のためと女子トイレ前の壁にもたれ掛かって芽生の携帯電話を鳴らしてみる。
マナーモードにしていたとしても、バイブ音くらいは聞こえてくるかもしれないと思ったからだ。
トイレを出入りする女性たちから、奇異なものでも見るみたいにチラチラと視線を投げ掛けられたけれど、そんなの知ったことじゃない。
「神田さん! 大丈夫か!?」
一応トイレ内に向かって叫んでみたりもしたけれど、反応がない。それを確認して、ますます気持ちが急いた。
(くそっ。あの女、逃亡しやがった!)
今更だが、ソワソワと自分の顔色をうかがっていた芽生の様子を思い出した佐山は、チッと舌打ちをする。
(あいつが行きそうなところ――)
はやる気持ちを落ち着けながら考えを巡らせて、自分たちにペナルティを課すために、芽生が『たちばな庵』の塩大福を要求してきたことを思い出した佐山は「菓子屋……!」とつぶやいて、一階を目指した。