組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
『孫が殺されたとは思えないんです。殺すつもりがあったなら、赤子のこと。そのまま娘と一緒に川へ沈めればよかっただけ。でもそうじゃなかったから……。考えたくないですが、きっと犯人だけが沙奈が産んだ子の居場所を知っているはずなんです! いつか何かの時に利用出来ると考えてのことかも知れません!』
そう告げた奈央子の瞳は涙に潤んでいたけれど、力強い光を宿していたと使者から報告を受けている栄蔵だ。
「奈央子さんは……沙奈さんと栄一郎さんのこと」
芽生の問いに、栄蔵は吐息を落としながらも「自殺なんかじゃないと信じているようだよ」と即答した。
正直、息子に関しては栄蔵も他殺だと思わなかったわけじゃない。
そもそも中村母娘を追放した場所での死というのが、余りにも不可解だ。
そこへいたということは、息子はきっと沙奈へ会いに行ったに違いない。会ったから自殺したのか? それとも会えたから《《誰かに殺された》》のか?
栄蔵は息子の死を知った当時、そんなことが頭の中をぐるぐるしたのを覚えている。
いずれにせよ自分が二人を引き離さなければそんなことにはならなかったという負い目が、真実を突き止める気持ちにブレーキを掛けてきた。
だが、もうそんなことを言っていられる状況ではない。
奈央子の話によると、栄一郎は亡くなる直前、沙奈との間に子が出来たのを喜び、栄蔵を説得すると意気込んでいたという。
だとしたら息子の死因は、自殺であろうはずがない。
腹心の者が奈央子の元から帰ってきてすぐ、栄蔵は鳴矢を呼んで、一か八か。『栄一郎が残した子供がどこかで生きているかも知れない』と《《鎌を掛けた》》。『わたしはその子を探し出すつもりだ。もし可能ならお前にも力を貸して欲しい』と。
栄蔵の言葉を聞いた鳴矢は、真っ先に遺言書が書き換わるか否かを聞いてきた。
それはそうだろう。
鳴矢にとってはそれが一番気掛かりなのだろうから。
栄蔵は鳴矢に『書き換えることにはなるが、《《お前への》》分配金額は《《変わらない》》よう配慮する』と答えた。『《《書き換えるのは会社へ残す額の方》》だから』と。
鳴矢は上に立つ人間としての器でこそなかったが、頭が悪いわけではない。きっと、それだけで《《残りの九割が孫娘にいく》》可能性を考えたはずだ。
栄蔵は、それに思い至った鳴矢がどう動くかを注意深く観察するつもりでいた。
孫が男の子か女の子か、鳴矢へ告げなかったのも《《わざと》》だったが、鳴矢はそれを《《何故か訊いてこなかった》》。その時点でグッと鳴矢への不信感が高まったのは言うまでもない。
奈央子から沙奈のお腹にいた子は女の子だったと報告を受けていた栄蔵は、唯一の法定遺産相続人である子が、結婚適齢期の異性だと知った場合、鳴矢がどう動くか……何となく察しがついていた。
孫が《《無事見つからなかった》》場合、栄蔵の資産はほとんど全てが会社へ渡ると示唆していたのは、もしものとき孫に危害が及ばないようにするための保険のつもりだった。
悪知恵の働く鳴矢のことだ。もしも彼が孫の居場所を知っていたとしたら、栄蔵の全財産を手に入れるため、何としても孫を取り込もうとするはず。
そう思っていたのだが――。
まさか栄蔵が孫娘を探し始めるよりも遥かに前の段階で、鳴矢が用意周到にも孫娘への接触をはかっていたとは考えもしなかった。
そう告げた奈央子の瞳は涙に潤んでいたけれど、力強い光を宿していたと使者から報告を受けている栄蔵だ。
「奈央子さんは……沙奈さんと栄一郎さんのこと」
芽生の問いに、栄蔵は吐息を落としながらも「自殺なんかじゃないと信じているようだよ」と即答した。
正直、息子に関しては栄蔵も他殺だと思わなかったわけじゃない。
そもそも中村母娘を追放した場所での死というのが、余りにも不可解だ。
そこへいたということは、息子はきっと沙奈へ会いに行ったに違いない。会ったから自殺したのか? それとも会えたから《《誰かに殺された》》のか?
栄蔵は息子の死を知った当時、そんなことが頭の中をぐるぐるしたのを覚えている。
いずれにせよ自分が二人を引き離さなければそんなことにはならなかったという負い目が、真実を突き止める気持ちにブレーキを掛けてきた。
だが、もうそんなことを言っていられる状況ではない。
奈央子の話によると、栄一郎は亡くなる直前、沙奈との間に子が出来たのを喜び、栄蔵を説得すると意気込んでいたという。
だとしたら息子の死因は、自殺であろうはずがない。
腹心の者が奈央子の元から帰ってきてすぐ、栄蔵は鳴矢を呼んで、一か八か。『栄一郎が残した子供がどこかで生きているかも知れない』と《《鎌を掛けた》》。『わたしはその子を探し出すつもりだ。もし可能ならお前にも力を貸して欲しい』と。
栄蔵の言葉を聞いた鳴矢は、真っ先に遺言書が書き換わるか否かを聞いてきた。
それはそうだろう。
鳴矢にとってはそれが一番気掛かりなのだろうから。
栄蔵は鳴矢に『書き換えることにはなるが、《《お前への》》分配金額は《《変わらない》》よう配慮する』と答えた。『《《書き換えるのは会社へ残す額の方》》だから』と。
鳴矢は上に立つ人間としての器でこそなかったが、頭が悪いわけではない。きっと、それだけで《《残りの九割が孫娘にいく》》可能性を考えたはずだ。
栄蔵は、それに思い至った鳴矢がどう動くかを注意深く観察するつもりでいた。
孫が男の子か女の子か、鳴矢へ告げなかったのも《《わざと》》だったが、鳴矢はそれを《《何故か訊いてこなかった》》。その時点でグッと鳴矢への不信感が高まったのは言うまでもない。
奈央子から沙奈のお腹にいた子は女の子だったと報告を受けていた栄蔵は、唯一の法定遺産相続人である子が、結婚適齢期の異性だと知った場合、鳴矢がどう動くか……何となく察しがついていた。
孫が《《無事見つからなかった》》場合、栄蔵の資産はほとんど全てが会社へ渡ると示唆していたのは、もしものとき孫に危害が及ばないようにするための保険のつもりだった。
悪知恵の働く鳴矢のことだ。もしも彼が孫の居場所を知っていたとしたら、栄蔵の全財産を手に入れるため、何としても孫を取り込もうとするはず。
そう思っていたのだが――。
まさか栄蔵が孫娘を探し始めるよりも遥かに前の段階で、鳴矢が用意周到にも孫娘への接触をはかっていたとは考えもしなかった。