組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
(おい、相良(さがら)京介! お前、うちの可愛い孫娘に何の不満があるというんだ!)
 それでだろう。ヤクザ者と孫が夫婦になるなんてあり得ないと思っているくせに、心裏腹。相良が芽生(めい)のことを気に入らないみたいな態度を取ったことを腹立たしく思ってしまったのは。

「芽生、わたしには何の相談もしてくれてないのに、それは決定事項なのかい?」
 栄蔵は自分から呆気なく離れて、相良の手に嬉しそうに腕を絡めてこちらを見詰めてくる芽生にも、非難がましい口調でそう問いかけずにはいられない。

 そもそも、さっきまで自分の存在を知らなかった芽生はともかくとして、相良京介は栄蔵が彼女の祖父であることを知っていたはずだ。
 なのに、芽生のことを気に入らないみたいな雰囲気を(かも)し出しておきながら、まるで外堀を固めるみたいに栄蔵(じぶん)をすっ飛ばして、孤児院の恩師と友人に大切な孫娘との婚姻届の証人欄を埋めさせるとか、わざとやったとしか思えないではないか。
「わ、わたしは反対だ!」
 それで、当然というべきか、気が付けばそんな言葉が口をついていた。


***

 正直(ぶっちゃけ)過去に芽生(めい)から渡された婚姻届を未練がましく持っていたこと自体、京介にとっては有り得ないことだった。
 それを細波(さざなみ)鳴矢(なるや)のことにかこつけて引っぱり出したのは、その件が自分の気持ちに踏ん切りをつけるためのきっかけに過ぎなかったことを、京介だけはイヤになるくらい知っている。
 『YURIKA』の放火をきっかけに捕まえた細波(さざなみ)鳴海(なるみ)に自白させた、一連の放火に関する動機。それを千崎(せんざき)経由で聞かされ、その絡みで芽生の身内が大企業の社長・田畑栄蔵だと知った時には強い焦燥感に駆られたのを覚えている。
 千崎に命じて鳴海が持っていたというDNA鑑定の書類をスマートフォンへ送らせた京介は、それを栄蔵宛に芽生の写真とともに転送して孫娘を連れて行くと連絡しておきながら、芽生を奪われ(とられ)たくない一心。
 本来ならば《《栄蔵に》》書いてもらうのが筋だと《《分かっていて》》、あえて比田と長谷川に証人欄を埋めさせた。それだって、今みたいに芽生の本当の身内から反対された時、強硬手段に出られる保険みたいなものが欲しかったからに他ならない。

 だがそう思うのと裏腹。こんな自分が本当に芽生をもらい受けてもいいのだろうか? という躊躇(ためら)いが捨て切れなかったのもまた事実で……やたら祝福モードの比田や長谷川に素直になれなかったのも、照れ以上に後ろめたさがあったからだ。
 そのくせそんな自分の態度に芽生が不安を覚えて離れそうになれば、繋ぎ留めたいみたいに彼女を好きだという気持ちを垣間見(かいまみ)せずにはいられなかった。
 ならば心の(おもむ)くまま。すぐにでも役所へ婚姻届を提出すればよかったものを、そうすることも出来ず《《先に》》ここへ来てしまったのは、芽生の肉親である栄蔵を(ないがし)ろにすることへ負い目を感じたからだ。
 芽生にとって栄蔵が掛け替えのない存在になると分かっていながら会わせておいて、そのことを後悔している自分がいるのは何とも情けない話ではないか。京介にとっては《《芽生だけが》》唯一無二の身内となり得る存在だと確信しているのに、彼女にとっての自分が無双ではないのだとまざまざと実感させられることは、想像以上に(こた)えた。

 それは、芽生に〝婚姻届を提出する前〟という逃げ道を用意したことを口惜しく感じるほどのことだったのに、頭の片隅。『芽生を手放してやれる可能性を残しておいて良かったじゃねぇか』と自嘲気味に(ささや)く自分もいて、京介は(おのれ)の感情を持て余してイライラした。

 矛盾(むじゅん)だらけにもほどがあるそういう諸々(もろもろ)の想いたちに翻弄(ほんろう)されて、こんなドロドロとした気持ちを抱えたままの自分が芽生を妻にすれば、きっと今以上にガチガチに囲い込みたくなることだけは断言できると痛感させられた京介である。
 自分の身内にすることで、芽生が《《物理的に》》命を狙われ易くなることは本当だ。それらから芽生を守らねばならないというのももちろん事実。
 そう説明すれば、芽生はある程度京介の作った鳥かごの中にいてくれるだろう。
 だが、そんなのはハッキリいって大義名分に過ぎない。
 いつかそういうのを全て度外視して、ただただ芽生を閉じ込めておきたい感情が暴走しかねない危険性を(はら)んでいることを、京介自身骨身にしみて感じている。
 そんな自分に付き合わせることに、躊躇せずにいられるわけがない。

 なのに――。
< 79 / 132 >

この作品をシェア

pagetop