組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
5.家事は私が!
京介に案内されて入った風呂場は、広い洗面・脱衣所と大きなユニットバスを備えていた。
脱衣所の片隅には作り付けのリネン棚があって、真っ白なバスタオルやフェイスタオルなどが整理整頓されて綺麗に並べられていた。
京介がそこからバスタオルを一枚取り出しながら、
「タオルはここから好きなのを好きなだけ使え。洗濯は毎日組の若い者が来てするから、心配しなくても補充もちゃんとされるぞ?」
なんて言うものだから、芽生は黙っていられなかった。
「あ、あのっ。京ちゃん、洗濯機は……」
聞けばLDK横のユーティリティースペースに二台並んで設置されているという。乾燥機もあるそうなのでかなりハイスペックだ。
「お洗濯、私がしちゃダメ、……かな?」
使い方さえ教えてもらえれば、洗濯くらい芽生にだって出来る。
誰かがタオル類を洗いに来てくれるということは、下手するとそれ以外も人の手にゆだねることになるんじゃないだろうか?
例えば――。
(下着とか下着とか下着とかっ!)
そんなのを他人様――それも恐らくは若い男性――に任せるなんて絶対無理! 恥ずかしくて死ねる!
いま身に着けている服だって、出来れば自分で洗って干したい。
そう思って京介を見詰めたら、京介は少し考える素振りを見せた後、「まー、確かにお前が一人で家へいる時によく知りもしねぇ男が出入りするのは気詰まりか」とつぶやく。
そんな京介にコクコクうなずきまくったら、「張り子のトラかっ」と笑われてしまった。
「うちの若い衆に限って間違いは起こさねぇって断言はできるが、それとお前が安心できるかどうかは別問題だよな」
京介は少し考えて、「……じゃあこれからは洗濯、お前に任せてもいいか?」と聞いてくる。
芽生は「もちろん!」と答えてからハッとした。
「あ、あの、それって京ちゃんのも……?」
「あ? ……してもらえりゃ助かるが、まあ最悪俺のはコンシェルジュに託したんで構わねぇよ。どうせクリーニングに出すもんは彼女らに頼んでるし、《《ついで》》に出せばそんなに手間も掛かんねぇだろ」
言われて、芽生はスーツやワイシャツはそれでいいとして〝ついで〟に何が含まれるのかが気になってしまう。
「あの、ついでって……ひょっとして下着もコンシェルジュさんに頼むってこと?」
先ほど下で会った綺麗な女性を思い出した芽生は、なんだかモヤモヤしてしまう。
まさか下着をクリーニングに出すとかはないはずだけれど、京介ならやり兼ねないとも思えてしまうから不思議だ。
「は? ついでは部屋着とかそういうのだぞ? 下着は俺、基本使い捨てだからな」
だけど想像していたより斜め上の言葉が返ってきて、芽生は思わず「もったいない!」と叫んでいた。
「芽生?」
「京ちゃん、下着は買ってきたのをそのまま肌に当てるより一度洗ってからの方が絶対いい! あと、使い捨てなんてもってのほかよ!? 洗えば何度でも履けるんだからそうしなきゃダメ! もう! 京ちゃんの下着も私が洗うから今度から私にちょうだい!? いーい!?」
「お、おう、分かった……。じゃ、頼むわ」
驚きのあまり一気にまくし立ててしまったけれど、ややしてクスクス笑われて「子ヤギはいい嫁さんになれそうだな」と頭をくしゃくしゃされて、芽生はにわかに恥ずかしくなった。
***
「今日は色々あって疲れただろ。風呂、ちゃんと湯張りもしてあるし、ゆっくり温もって身体ほぐしてこい。……あー、それから脱衣所、内側から鍵も掛けられるから。不安なら掛けとけ」
そのままの流れでひらひらと手を振りながら京介が立ち去るのを呆然と見送った芽生は、着替えとバスタオルに顔を埋めるようにして、いま彼が出て行ったばかりの扉へもたれ掛かって空気の抜けた風船みたいにズルズルと座り込んだ。
(きゃー、私のバカ! 京ちゃんの下着任されるとかっ。絶対照れ臭いやつー!)
言葉とは裏腹。ちょっぴり新婚さんみたいで嬉しいな? と思ったのも事実。
***
お風呂から上がって、買ってもらったばかりのモコモコ部屋着に着替えた芽生は、LDKに戻ってきて恐る恐る扉を開けた。
途端、出汁の芳しい香りが鼻先をくすぐって、お腹がグゥッと鳴ってしまう。
「京ちゃん」
それを誤魔化すみたいにお腹を押さえながらキッチンに立つ男の名を呼んだ。
「おう、子ヤギ、風呂上がったか」
「うん」
不思議だ。
いま京介自身が問いかけてきたように、芽生が風呂から上がったばかりだというのに、何故か京介もまるで風呂上がりででもあるかのように髪がしっとりと濡れそぼっている。それを裏付けるように、肩へ引っ掛けられた真っ白なタオルが、湯上がり感をいや増させていた。
外で会うときにはいつもきっちりセットされた髪の毛も、無造作にタオルでワシワシ拭いた後みたいにラフな感じで下りている。それが、全体的になんとも言えない男の色香を漂わせていた。
加えてさっきまではきちっとしたスリーピースのスーツを着こなしていたはずなのに、今は白のTシャツの上に上下揃いのジャージ姿。そんなラフな服装の京介を見たのも初めてだった芽生は、妙に緊張してしまった。
脱衣所の片隅には作り付けのリネン棚があって、真っ白なバスタオルやフェイスタオルなどが整理整頓されて綺麗に並べられていた。
京介がそこからバスタオルを一枚取り出しながら、
「タオルはここから好きなのを好きなだけ使え。洗濯は毎日組の若い者が来てするから、心配しなくても補充もちゃんとされるぞ?」
なんて言うものだから、芽生は黙っていられなかった。
「あ、あのっ。京ちゃん、洗濯機は……」
聞けばLDK横のユーティリティースペースに二台並んで設置されているという。乾燥機もあるそうなのでかなりハイスペックだ。
「お洗濯、私がしちゃダメ、……かな?」
使い方さえ教えてもらえれば、洗濯くらい芽生にだって出来る。
誰かがタオル類を洗いに来てくれるということは、下手するとそれ以外も人の手にゆだねることになるんじゃないだろうか?
例えば――。
(下着とか下着とか下着とかっ!)
そんなのを他人様――それも恐らくは若い男性――に任せるなんて絶対無理! 恥ずかしくて死ねる!
いま身に着けている服だって、出来れば自分で洗って干したい。
そう思って京介を見詰めたら、京介は少し考える素振りを見せた後、「まー、確かにお前が一人で家へいる時によく知りもしねぇ男が出入りするのは気詰まりか」とつぶやく。
そんな京介にコクコクうなずきまくったら、「張り子のトラかっ」と笑われてしまった。
「うちの若い衆に限って間違いは起こさねぇって断言はできるが、それとお前が安心できるかどうかは別問題だよな」
京介は少し考えて、「……じゃあこれからは洗濯、お前に任せてもいいか?」と聞いてくる。
芽生は「もちろん!」と答えてからハッとした。
「あ、あの、それって京ちゃんのも……?」
「あ? ……してもらえりゃ助かるが、まあ最悪俺のはコンシェルジュに託したんで構わねぇよ。どうせクリーニングに出すもんは彼女らに頼んでるし、《《ついで》》に出せばそんなに手間も掛かんねぇだろ」
言われて、芽生はスーツやワイシャツはそれでいいとして〝ついで〟に何が含まれるのかが気になってしまう。
「あの、ついでって……ひょっとして下着もコンシェルジュさんに頼むってこと?」
先ほど下で会った綺麗な女性を思い出した芽生は、なんだかモヤモヤしてしまう。
まさか下着をクリーニングに出すとかはないはずだけれど、京介ならやり兼ねないとも思えてしまうから不思議だ。
「は? ついでは部屋着とかそういうのだぞ? 下着は俺、基本使い捨てだからな」
だけど想像していたより斜め上の言葉が返ってきて、芽生は思わず「もったいない!」と叫んでいた。
「芽生?」
「京ちゃん、下着は買ってきたのをそのまま肌に当てるより一度洗ってからの方が絶対いい! あと、使い捨てなんてもってのほかよ!? 洗えば何度でも履けるんだからそうしなきゃダメ! もう! 京ちゃんの下着も私が洗うから今度から私にちょうだい!? いーい!?」
「お、おう、分かった……。じゃ、頼むわ」
驚きのあまり一気にまくし立ててしまったけれど、ややしてクスクス笑われて「子ヤギはいい嫁さんになれそうだな」と頭をくしゃくしゃされて、芽生はにわかに恥ずかしくなった。
***
「今日は色々あって疲れただろ。風呂、ちゃんと湯張りもしてあるし、ゆっくり温もって身体ほぐしてこい。……あー、それから脱衣所、内側から鍵も掛けられるから。不安なら掛けとけ」
そのままの流れでひらひらと手を振りながら京介が立ち去るのを呆然と見送った芽生は、着替えとバスタオルに顔を埋めるようにして、いま彼が出て行ったばかりの扉へもたれ掛かって空気の抜けた風船みたいにズルズルと座り込んだ。
(きゃー、私のバカ! 京ちゃんの下着任されるとかっ。絶対照れ臭いやつー!)
言葉とは裏腹。ちょっぴり新婚さんみたいで嬉しいな? と思ったのも事実。
***
お風呂から上がって、買ってもらったばかりのモコモコ部屋着に着替えた芽生は、LDKに戻ってきて恐る恐る扉を開けた。
途端、出汁の芳しい香りが鼻先をくすぐって、お腹がグゥッと鳴ってしまう。
「京ちゃん」
それを誤魔化すみたいにお腹を押さえながらキッチンに立つ男の名を呼んだ。
「おう、子ヤギ、風呂上がったか」
「うん」
不思議だ。
いま京介自身が問いかけてきたように、芽生が風呂から上がったばかりだというのに、何故か京介もまるで風呂上がりででもあるかのように髪がしっとりと濡れそぼっている。それを裏付けるように、肩へ引っ掛けられた真っ白なタオルが、湯上がり感をいや増させていた。
外で会うときにはいつもきっちりセットされた髪の毛も、無造作にタオルでワシワシ拭いた後みたいにラフな感じで下りている。それが、全体的になんとも言えない男の色香を漂わせていた。
加えてさっきまではきちっとしたスリーピースのスーツを着こなしていたはずなのに、今は白のTシャツの上に上下揃いのジャージ姿。そんなラフな服装の京介を見たのも初めてだった芽生は、妙に緊張してしまった。