組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
「芽生、千崎に持って来させたパジャマ、似合ってるじゃねぇか。可愛いぞ」
ちらりと芽生に視線を投げ掛けてフッと笑うと、京介が芽生の部屋着姿を褒めてくれる。
ほわりと柔らかな印象を受ける薄桃色のモコモコパジャマは、左胸のところに愛らしいウサギのアップリケが付いていた。
ただ単に服装の力かも知れないが、大好きな男に〝可愛い〟だなんて言われて、心を躍らせないなんて無理。
「あ、りがと。えっと……きょ、京ちゃんも、その、……かっこいい、よ?」
「バーカ。なに赤くなってんだ」
(いや、だからそういうことはいちいち口にしないでっ!)
芽生はボフッとフードを被って顔を隠すと、「だって京ちゃん。何だかいつもと雰囲気違うから落ち着かないんだもん」
本当は〝照れ臭い〟と言いたいのを〝落ち着かない〟と言い換えて、芽生はうつむいたままボソリとつぶやいた。
***
「うまいか?」
京介が作ってくれた鍋焼きうどんをはふはふしながら食べ始めた芽生だったのだけれど、ダイニングテーブルの向かい側に座った京介が気になって仕方がない。
(京ちゃんと向かい合わせでお食事するのなんて初めてじゃないのにっ)
芽生は正直今まで感じたことのない圧倒的な〝アットホーム感〟漂う京介の外観にやられまくりなのだ。
京介自身は夕飯をすでに済ませた後だったのか、小さなデミタスカップを手にしている。中身はエスプレッソマシンで淹れたエスプレッソコーヒーらしい。じっと見つめすぎたのか「子ヤギも飲みてぇのか?」と聞かれて京介が飲んでいるカップをスッと差し出された。
(キャー、京ちゃん! それ、間接キスになるやつ!)
思いながらも、あえて京介が口を付けていない側からちょっとだけ中身を口にした芽生は、その苦さに驚いてギュッと顔をしかめた。
「苦ぁーいっ!」
不満を漏らして、「まるでコーヒーの香りがするソースみたい!」と付け加えたら、京介にブハッと吹き出された。
「お子ちゃまにはエスプレッソはまだ早かったか」
クスクス笑われて、芽生はムッとする。お砂糖がたっぷり入っているとか、牛乳で薄められているとかすれば芽生だって飲めたはずだ。
「京ちゃん、そんな苦いの夜に飲んで眠れなくなっても知らないんだからっ!」
うどんとともに供されていたよく冷えた麦茶で苦みを追い払いながら京介を睨んだら「コーヒー飲んだくれぇーで眠気なんて飛ばねぇわ」と一蹴されてしまう。
その上で、「あのマシンな、フォームミルクも作れるからカフェラテも淹れられるぞ? 明日の朝飲ませてやろうな」とか、優し過ぎでしょ!
美味しそうにコーヒーソース……もといエスプレッソを味わう京介をチラチラ見ながら、芽生は目の前の鍋焼きうどんに集中した。
***
京介の家は本当に広くて、五〇畳以上はあると思われるLDKの他に九畳ちょっとの洋室が二部屋、十畳の洋室が一部屋、十八畳ちょっとの洋室が一部屋あった。すべての部屋にWICが備え付けられているうえ、トイレと風呂場が各々二つずつあった。
なんでも片方は来客用で、芽生が使わせてもらったのはまさにそっち側。芽生が湯船に浸かって激動の一日を思い出してぽやぽやしている間に、京介はいつも自分が使っているバスルームでササッととシャワーを浴びて身体を清めたらしい。
「お前にくっ付かれてたからだろーな。俺にもあの男の香水が移っちまってたわ」
「京ちゃんもお風呂に入ったの?」と問うた芽生に、京介はこともなげにバスルームが二つある旨を明かしてそんなことを言ったのだ。
芽生の風呂上り、キッチンに立つ京介も湯上がり感駄々洩れだったのは、そんな理由だったらしい。
ちなみに芽生が使った方の浴室は、昔、部屋住みの若い衆を住まわせて身の回りの世話をさせていた頃に使わせていたものらしい。今は事務所の方にそういう場所を用意したのでこちらは使われなくなって久しいとのことだった。
芽生はLDKや、来客用の風呂場とトイレに一番近い九畳間を使うように言われた。
「この部屋な、そこの扉から避難バルコニーに出られっから。いざってときにゃ、すぐ脱出できるぞ?」
「いざってとき?」
芽生のキョトンとした顔を見詰めて、京介が「まぁ、その、……なんだ。俺の素行が良くねぇのもあるし……。それがなくても生きてりゃ何があるか分かんねぇからな」ときまり悪そうにつぶやく。
それを聞いて、芽生は自分が正に今日、家を焼け出されてしまったばかりなことを思い出した。
「そうだね……」
それでしみじみと京介の言葉に同意した。
ちらりと芽生に視線を投げ掛けてフッと笑うと、京介が芽生の部屋着姿を褒めてくれる。
ほわりと柔らかな印象を受ける薄桃色のモコモコパジャマは、左胸のところに愛らしいウサギのアップリケが付いていた。
ただ単に服装の力かも知れないが、大好きな男に〝可愛い〟だなんて言われて、心を躍らせないなんて無理。
「あ、りがと。えっと……きょ、京ちゃんも、その、……かっこいい、よ?」
「バーカ。なに赤くなってんだ」
(いや、だからそういうことはいちいち口にしないでっ!)
芽生はボフッとフードを被って顔を隠すと、「だって京ちゃん。何だかいつもと雰囲気違うから落ち着かないんだもん」
本当は〝照れ臭い〟と言いたいのを〝落ち着かない〟と言い換えて、芽生はうつむいたままボソリとつぶやいた。
***
「うまいか?」
京介が作ってくれた鍋焼きうどんをはふはふしながら食べ始めた芽生だったのだけれど、ダイニングテーブルの向かい側に座った京介が気になって仕方がない。
(京ちゃんと向かい合わせでお食事するのなんて初めてじゃないのにっ)
芽生は正直今まで感じたことのない圧倒的な〝アットホーム感〟漂う京介の外観にやられまくりなのだ。
京介自身は夕飯をすでに済ませた後だったのか、小さなデミタスカップを手にしている。中身はエスプレッソマシンで淹れたエスプレッソコーヒーらしい。じっと見つめすぎたのか「子ヤギも飲みてぇのか?」と聞かれて京介が飲んでいるカップをスッと差し出された。
(キャー、京ちゃん! それ、間接キスになるやつ!)
思いながらも、あえて京介が口を付けていない側からちょっとだけ中身を口にした芽生は、その苦さに驚いてギュッと顔をしかめた。
「苦ぁーいっ!」
不満を漏らして、「まるでコーヒーの香りがするソースみたい!」と付け加えたら、京介にブハッと吹き出された。
「お子ちゃまにはエスプレッソはまだ早かったか」
クスクス笑われて、芽生はムッとする。お砂糖がたっぷり入っているとか、牛乳で薄められているとかすれば芽生だって飲めたはずだ。
「京ちゃん、そんな苦いの夜に飲んで眠れなくなっても知らないんだからっ!」
うどんとともに供されていたよく冷えた麦茶で苦みを追い払いながら京介を睨んだら「コーヒー飲んだくれぇーで眠気なんて飛ばねぇわ」と一蹴されてしまう。
その上で、「あのマシンな、フォームミルクも作れるからカフェラテも淹れられるぞ? 明日の朝飲ませてやろうな」とか、優し過ぎでしょ!
美味しそうにコーヒーソース……もといエスプレッソを味わう京介をチラチラ見ながら、芽生は目の前の鍋焼きうどんに集中した。
***
京介の家は本当に広くて、五〇畳以上はあると思われるLDKの他に九畳ちょっとの洋室が二部屋、十畳の洋室が一部屋、十八畳ちょっとの洋室が一部屋あった。すべての部屋にWICが備え付けられているうえ、トイレと風呂場が各々二つずつあった。
なんでも片方は来客用で、芽生が使わせてもらったのはまさにそっち側。芽生が湯船に浸かって激動の一日を思い出してぽやぽやしている間に、京介はいつも自分が使っているバスルームでササッととシャワーを浴びて身体を清めたらしい。
「お前にくっ付かれてたからだろーな。俺にもあの男の香水が移っちまってたわ」
「京ちゃんもお風呂に入ったの?」と問うた芽生に、京介はこともなげにバスルームが二つある旨を明かしてそんなことを言ったのだ。
芽生の風呂上り、キッチンに立つ京介も湯上がり感駄々洩れだったのは、そんな理由だったらしい。
ちなみに芽生が使った方の浴室は、昔、部屋住みの若い衆を住まわせて身の回りの世話をさせていた頃に使わせていたものらしい。今は事務所の方にそういう場所を用意したのでこちらは使われなくなって久しいとのことだった。
芽生はLDKや、来客用の風呂場とトイレに一番近い九畳間を使うように言われた。
「この部屋な、そこの扉から避難バルコニーに出られっから。いざってときにゃ、すぐ脱出できるぞ?」
「いざってとき?」
芽生のキョトンとした顔を見詰めて、京介が「まぁ、その、……なんだ。俺の素行が良くねぇのもあるし……。それがなくても生きてりゃ何があるか分かんねぇからな」ときまり悪そうにつぶやく。
それを聞いて、芽生は自分が正に今日、家を焼け出されてしまったばかりなことを思い出した。
「そうだね……」
それでしみじみと京介の言葉に同意した。