組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
33.京ちゃん、そばにいてくれてありがとう
 ちょっとだけだと念押ししたはずなのに、案外長いこと外へ居過(いす)ぎたため、京介も芽生(めい)も、すっかり身体が冷え切ってしまった。
 芽生の身体を(ぬく)めたいみたいに、指輪を付けた彼女の左手をギュッと握って中庭からワオンモール内へ戻ると、京介はそこで一旦石矢(いしや)へ電話を掛けた。
「ああ、石矢か。そろそろ戻ろうと思うんだが、俺も芽生も身体が冷えちまってんだわ。(わりぃ)が、エンジン掛けて車内を温めておいてくれ」
 すぐに戻ったのでは、まだ温まり切っていないかも知れない。京介は芽生の照れ顔を眺めながら、のんびり歩こう、と思った。


***


「なぁ芽生(めい)。お前、調子悪いんじゃねぇのか?」
 それは田畑(たばた)栄蔵(えいぞう)のところへ芽生を迎えに行った時から何となく感じていたことだ。だが、あまりにも芽生がいつも通りに過ごすから……京介は気のせいだと思い込もうとしてしまっていた。
 もしかしたら自分自身、芽生に対していい加減ちゃんとケジメを付けなければいけないと思っていて、平常心ではなかったからかも知れない。
「えー? 大丈夫だよ? もぉー、京ちゃんってばホント心配性なんだから」
 芽生はそう言って笑ったが、目がどことなくトロンとして(うる)んでいるし、声にも何となくいつもの覇気(はき)がない。
 ワオンモール内を駐車場に向けてのんびり歩いていた時に伝わってきた、芽生の体温。それから時折自分の方を見上げてくる眼差し。そのどれもが、いつもと微妙に違っていて、京介は車に乗り込むなり、「大丈夫だよ?」と訴える芽生を無視して彼女の額へ手を当てていた。
「バカ! お前、これ、絶対熱あんだろ!」
 芽生の頬に赤みがさして見えたのは、何も彼女が京介からのアレコレに照れていたから……ばかりではなかったらしい。
 栄蔵(じいさん)の家へ芽生を迎えに行った時から異変は何となく感じ取っていたのに、芽生が平気そうに振る舞うから。つい独占欲が(まさ)って、〝芽生(この女)は俺のだ〟という指輪(しるし)をつけるのを優先してしまった自分を、心底呪いたくなった京介である。
 京介は石矢に命じると、行き先をマンションから相良組(さがらぐみ)懇意(こんい)にしている医者の所へ切り替えた。


***


「インフルエンザAですね」
 京介に半ば無理矢理連れて行かれた小さな個人病院で、医者は無情にもそう診断を下した。
「ほら見ろ。やっぱり調子悪かったんじゃねぇか」
 京介に怖い顔をされて、きゅぅっと縮こまりながら……芽生(めい)は「だって……」と言い訳しようとして、京介に睨まれてしまう。
「ごめんなさい……」
 仕方なく素直に謝りながら、それでもよりによって感染力が強いものを拾ってしまったことに泣きたくなった。
 芽生は、お給料日に佐山(ブンブン)にお願いしてワオンモールへ行った際、マスクを忘れてソワソワしたことがあった。
(きっとあの時に拾っちゃったんだ……。潜伏期間的にきっとそう)
 ブンブンを(だま)した(ばち)が当たったのかも知れない。
 シュンとしょげながら、芽生はふと……大好きな京介の前で、長い綿棒みたいなものを鼻に突っ込まれてグリグリされたのを思い出して、恥ずかしさで一杯になった。
(穴掘って引きこもりたいぃぃぃぃ)
 自分でも朝から何となく体調が悪い気はしていた。でもそれを認めてしまえば、一気に寝込んでしまう気がして……自分を誤魔化していたというのに――。
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