婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
「いいんだよ。エステル。私たちは家族だからね」
 父親のあたたかさに触れれば、また涙が込み上げてきそうになる。下を向いて、それを誤魔化す。
「私たちは、エステルがセドリック殿下を想っていたのを知っているよ。ここにいては、まだ思い出してしまうだろう? だから、少し離れた場所で……そう、療養してみてはどうかと考えたんだよ」
 モートンが穏やかな声で告げた。
「療養……」
「そう。父さんの知り合いの家に面白い魔導職人がいるんだ」
 面白い魔導職人と言われ、エステルは顔を上げた。
 魔導具を作る人には二種類の人間がいる。モートンのように国に認められ、国のために働く国家魔導技師と、国に届けを出して自由に働く魔導職人だ。国のためかそうでないかで、扱いが変わってくる。
 王都で暮らしている者は国家魔導技師の資格をとってもいいが、地方に住んでいる者にとっては、面倒な肩書きとも聞いている。
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