婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 それはセリオを紹介されたときに聞いていたので、彼がここに来た目的くらい知っている。
「俺も必要なことはセリオに教えた。これ以上、俺から教えることはもう何もない。あと必要なのは経験だけだ」
「ギデオンからそう言われたら、俺も王都に戻るしかない」
 そこでセリオは肩をすくめておどけてみせた。少しでもこの場を和まそうとしているのだろう。
「……そうなんですね」
 喉の奥がひりついて、エステルはそれを言うだけでもせいいっぱいだった。
「寂しくなりますね」
 無意識のうちに口から漏れ出たその言葉は、エステルの本心かもしれない。
「別に、一生の別れというわけではないだろう? 俺は王都に戻るだけだ。同じ空の下にいる。お互いに生きていれば、またどこかで会える」
「……はい」
 頷いてはみたものの、それでもまたエステルの心にはぽっかりと穴が空いたような、そんな気分だった。
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