婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 セドリックが両手を広げ、エステルを抱き寄せようとしたが、ふとその手を止めた。
「エステル。君を抱きしめてもいいだろうか? 俺は、君との婚約を解消した後も、君をずっと想っていた。セリオとしてアドコック領に行ったのも、君に会いたかったからだ」
「セドリック様は、そうしなければならない理由があったんですよね?」
 エステルの声は落ち着いていたが、胸の奥では複雑な感情が渦巻いていた。
「あぁ……俺は弱い人間だ。君を守る術を持ち合わせていなかった。君を危険に巻き込むくらいなら、手放そうとそう思ってギデオンに預けた」
「もしかして、父が私にアドコック領で療養するようにすすめたのも……?」
 あぁ、とセドリックが静かに答える。
 エステルの心臓がドクンドクンと高鳴った。今すぐ彼の胸に飛び込みたい衝動に駆られる。だが、記憶の片隅には一年前のセドリックの隣にいた別の女性の姿がちらつく。
「本当は、私も今すぐセドリック様に抱き着きたいのですが……」
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