籠の中の鳥
 そして今朝──

 紗里奈はボサボサの髪のまま食事を持ってきた。なんとなくお酒の匂いがするが、許してやろう。

「はーい。できたよー。」

 紗里奈は檻の扉を開けて食事の皿を置いた。

「翔ちゃん、昨日はありがとう。私、翔ちゃんがいなかったら立ち直れなかったと思う。」
「そういうこともある。まぁ、がんばれ。」

「よぉーし!次の彼氏を見つけるぞー!」
「いや、彼氏はまだ作らなくてもいいと思う……急がなくてもできると思うから……な?」

 紗里奈は出かける準備を始めた。たぶん、俺の声は届いていない。

「彼氏……か……」

 紗里奈が出ていった後、俺は静かに考えた。同棲はしなくても、紗里奈に彼氏ができることは大いに考えられる。その時、俺はどうなるのだろうか。

 紗里奈は俺ではなくて彼氏を選ぶのか?紗里奈は俺を捨てるのだろうか。紗里奈がいなくなった後、俺はどうなる?

(なんで俺は紗里奈のことばっかり考えてるんだ?)

 紗里奈は俺を監禁している。紗里奈がいなくなれば、俺は自由になれる。だが、紗里奈が誰かと一緒に笑い合っていることを想像すると、胸が苦しい。

「俺は紗里奈のことが好きなのか……?いや、そんなはずない!」

 動揺して俺は紗里奈が置いてくれた食事の皿を踏んでしまった。こぼれないように慌てて皿を押さえると、檻の扉がわずかに開いていることに気づいた。

「開いてる……?」

 こんなチャンスは二度とない。ようやく監禁生活を終わらせることができる。扉の隙間に体を滑り込ませようとすると、俺の体はぐらりと傾いて、檻の中へ引き戻された。

 長い監禁生活で体力が落ちているのかもしれない。再び外へ出ようとすると、紗里奈が準備してくれた食事の皿が目に入った。

 俺が出て行ったら、紗里奈はどう思うだろうか。帰ってきて愚痴を聞く相手がいなくなったら、紗里奈は独り言を呟くのだろうか。また彼氏に振られて失恋したら、誰が紗里奈を慰めるのだろうか。

(紗里奈……)

 だるそうな顔をしながらも、紗里奈は毎日欠かさず食事を用意してくれる。話は通じないし、わかっているふりをするから面倒も多いけれど、紗里奈と話すことは楽しい。

 檻から出られない俺は、籠の中の鳥だと思っていた。でもいつの間にか、ここが俺の居場所になっていたようだ。

「俺はここにいる。」

 俺はそっと扉を閉めた。
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