敵国の王に囚われた皇女は、愛に溺れる
「くっ……!」

唇を噛み、私は甲冑の留め具を確かめると、迷いなく天幕の外へ足を踏み出した。

冷たい風が頬を打ち、遠くに翻る敵の旗が視界に入る。

あの旗のもとに、敵王カエルムがいる――そう確信して、私は馬を呼び寄せた。

「ダニエル! 私も最前線に立つ!」

天幕の外に飛び出しざま叫ぶと、背後で副団長が息を呑んだ。

「正気ですか、殿下!」

慌てふためく声が追ってくる。

「敵は王が前線に立っている! 私も立つべきだ!」

馬に飛び乗り、手綱を強く引く。

次の瞬間、私は兵士たちの間を縫うように駆け抜けていた。

背後から聞こえる、半ば呆れたような声。

「あの……じゃじゃ馬皇女が!」

それでも蹄音を響かせ、ダニエルは私の後ろを追ってくる。

文句を言いながらも見捨てない――そういう男だ。
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