敵国の王に囚われた皇女は、愛に溺れる
前方の喧騒の中、異様な存在感を放つ一人の男が目に入る。

黒い鎧に包まれ、長身の影がゆっくりとこちらを向いた。

戦場の喧噪が一瞬だけ遠のくような、凍りつく感覚。

「……カエルムか!」

喉の奥で名前を吐き捨てる。

敵方の王、その眼差しは刃のように鋭く、まるで私を標的に定めたかのようだった。

「敵王はあそこだ! 行けぇぇ!」

私の叫びに呼応して、兵たちが雄叫びを上げる。

「おおおっ!」

鬨の声が大地を揺らし、我が軍はなおも前線を押し進めた。

敵は圧力に耐えきれず、次々と退き始める。

「退け! 一旦退くんだ!」

指揮官らしき声が響き、黒い旗が後方へ翻る。

敵兵たちは背を向け、土煙を巻き上げながら走っていった。

「追いかけろ!」

勝機を逃すまいと、私は馬の腹を蹴った。

だが、手綱を取られ、馬が急停止する。
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